チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世のチベット帰還や信教の自由を求めるチベット人の焼身自殺者は2009年2月から昨年4月までの約6年間で143人にも及んでいる。チベット亡命政権の政治的最高指導者、ロブサン・センゲ首相はインタビューに応じ、現状を語った。中国内では昨年4月以来、新たな自殺者は出ていないものの、これは中国政府が自殺者を出した町や村に対して、電気と水道の供給を停止するという容赦ない厳罰を科しているためであることを明らかにした。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。
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昨年の年末も押し迫った中国四川省の甘孜(カンゼ)チベット族自治州の州都・康定市の中心部で、チベット仏教僧が1人で「ダライ・ラマは永遠に」「チベットの自由、独立を」などと叫んでデモを行った。しかし、その10分後には警官隊によって身柄を拘束され、いずこかに消えた。その後、彼を見た者はいない。カンゼでは、その2か月前にも同じような光景が展開されたが、その際のデモ抗議者もいまだに消息不明だ。
センゲ氏によると、チベット自治区や四川省や青海省などのチベット人居住区では僧侶や尼僧、学生や遊牧民、あるいは主婦らチベット人市民による「たった1人の抗議デモ」が盛んに行われるようになった。その理由が電気と水の供給停止だ。
そもそも、2009年以降、チベット人による焼身自殺がなぜ頻発したのか。その前年の2008年3月10日、チベット自治区の区都ラサで、中国の圧政に抗議するチベット人による大規模な騒乱が起き、中国全土のチベット人居住区に抗議行動が拡大した。この年の3月10日は1959年のダライ・ラマ14世のチベット脱出の契機となった「チベット蜂起」の49周年記念日だった。
当時の胡錦濤指導部が人民解放軍や武装警察を出動させた結果、チベット人に多数の犠牲者を出し、騒乱は鎮圧された。チベット亡命政府はチベット人の死者は203人、負傷者は千人以上で、少なくとも5715人が拘束されていると発表。中国はこの騒乱以後、厳しい弾圧に乗り出すことになる。
その後、軍などの僧院封鎖網は厳しさを増し、多くの僧侶が国家反逆罪などで逮捕されるなど中国側の弾圧はますます激しくなっていった。
僧院ではこれに対して、焼身自殺という手段で抗議する者が多発した。
●写真/小笠原亜人矛
※SAPIO2016年4月号