「もう1回! もう1回!」──室内に宮本英治トレーニングコーチの声が響く。松井稼頭央(40)は歯を食いしばり、声にならない呻きを漏らす。バーベルを上げるたび、膨れあがった腕に血管が浮かび上がる。
今季プロ23年目。すでに2000安打も達成した東北楽天ゴールデンイーグルスの大ベテランである。しかし、1月からスタートした自主トレは苛烈を極めた。これが40歳を迎えた選手のトレーニングなのか──。
西武ライオンズ入団時からトレーニングを見てもらっている宮本コーチと、メジャー時代に出会った岡克己トレーナーを自費で雇い「チーム・カズオ」を結成。オフは徹底的に体を追い込んでいく。
今回の自主トレにはチームの後輩である伊志嶺忠(30)、阿部俊人(27)の若手2選手も参加したが、2人とも松井と同じペースで練習をこなせなかった。宮本コーチによれば、松井のトレーニング量は年々増えているという。松井本人が語る。
「若い頃はトレーニングをすれば、それに比例するように筋力も上がっていきました。でも、今はもう同じような曲線のグラフは描けない。だからもっと上のトレーニングを目指す。それくらいの意識でやっと現状を維持できるんです」
もちろん20代の頃のように、ただがむしゃらにやればいいというわけではない。
「大切なのはメリハリです。今は肉体をピークに持っていく時期なのか。それとも敢えて落とす時期なのか。その見極めに経験が必要で、難しい」
「今年の自主トレは特に厳しくいこう」──そう誓う理由があった。