オランダ・ヴェースプ市にある介護施設・ホグウェイは、ちょっと歩いただけでは、ごく普通の村にしか見えない。しかし、住人は認知症の高齢者だけ。敷地内にあるスーパーなどで働く店員は皆、施設のスタッフだ。ここには、甲子園球場のグラウンド面積とほぼ同じの1万2000平方メートルに、152人が住んでいる。入居費用は月額5000ユーロ(約62万円)だが、見守られているという安心感から認知症患者が日常生活を送れるのなら、本人にも家族にもメリットは大きい。
居住スペースに目を移すと、入居者たちは6~7人でひとつの「ユニット」を組んで過ごしている。入居者の一人ひとりに個室が用意され、各ユニットに共用のリビング、キッチンなどが備わっている。居住スペースでも、入居者たちはスタッフと一緒に“生活”している感覚だという。
「ユニットでは入居者たちがスタッフと一緒に料理をしたり、洗濯やアイロンがけもしていました。部屋の中でも、できるだけ認知症になる前と変わらない生活を送ってもらうよう腐心していることがうかがえました」(元日経新聞編集委員で福祉ジャーナリストの浅川澄一氏)
入居者をユニットに分けていく際にも工夫がある。まず入居を希望する認知症高齢者の子供時代の思い出、結婚生活、仕事や趣味、好きな食べ物やスポーツなどを家族や友人などから詳細に聞き取るというのだ。
「その上で、7分類したライフスタイルのうち最もマッチすると思われるコンセプトのユニットに入ってもらうようにしています」(ホグウェイの広報担当者)
その7分類とは、伝統的価値観と生活習慣を重んじる「クラシック」、信仰深い人向けの「カトリック」、文化芸術に関心がある「アート」、富裕層向けの「セレブ」、家庭的な人の「アットホーム」、都会的生活を好む人向けの「シティ」、そしてかつてオランダ領だったインドネシアでの暮らしが長かった人向けの「インドネシア」だという。分類ごとに居住スペースのインテリアが違うなど細部まで工夫がある。
「過去の生活習慣をできるだけ継続することで、認知症の進行を食い止める効果が期待できる。同じライフスタイルを好む人たち同士でいるほうが当然、それまでの生活習慣を続けやすくなります」(浅川氏)
※週刊ポスト2016年3月18日号