国際情報

チベット人 激しい苦痛伴う焼身自殺をなぜあえて選ぶのか

チベット自治区成立50年の祝賀大会(2015年) 新華社/AFLO

 チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世のチベット帰還や信教の自由を求めるチベット人の焼身自殺者は2009年2月から昨年4月までの約6年間で143人にも及んでいる。チベット亡命政権の政治的最高指導者、ロブサン・センゲ首相は本誌のインタビューで、中国内では昨年4月以来、新たな自殺者は出ていないと説明。その代わりに「一人デモ」が相次いでいるという。しかし、そもそもなぜチベット人は焼身自殺という手を取らざるを得なかったのか。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。

 * * *
 1985年から亡命政府の専属建築家としてインド・ダラムサラに住み、チベット問題専門のニュースサイト「チベットNOW@ルンタ」で、中国内のチベット人の状況を詳細に伝えている中原一博氏はその著『チベットの焼身抗議 太陽を取り戻すために』(集広舎刊)のなかで、次のように書いている。

「焼身は自殺の中でも最も激しい苦痛を伴うものと言われている。体液は沸騰し、眼球は膨張し破裂する。息をすれば、気管と肺は焼け、激しい痛みと共に呼吸困難に陥る」(同書6ページ)

 つまり、自殺の方法として焼身を選ぶことは、激しい苦痛を伴うことから、しっかりとした覚悟がいる。生半可な決意では、その苦痛を耐え忍ぶことはできないし、生き残ってしまえば、全身にやけどの跡が残り、その後死ぬまでまともな生活を送ることができない。そのような覚悟を中国側に見せて、「われわれは絶対に中国には屈服しない」ということを中国側に分からせるために、焼身という手段をとるのだ。

 これについて、センゲ氏は「激しい苦痛を伴っても、生きているよりも死んだ方が楽だから焼身自殺を図るのだ。チベット仏教では死ぬことは最終的な終わりを意味しない。死ねば、必ず生まれ変わる。輪廻転生だ」と表情をゆがませた。

 さらに、センゲ氏は「たしかに、この1年間、焼身自殺は起きていないが、だからと言って彼らの不満が消えたわけではない。いや、彼らの不満は年々増幅しているのだ」と語り、その証拠にたった1人の抗議デモが頻繁に起きていると強調した。

 官憲に捕まれば、牢獄でのひどい拷問が待っている。拷問で指がなくなり、足がなくなり、手もなくなることもある。眼球が抉り出されたり、歯が全部なくなる例も報告されている。

 耐え難い苦痛が待っていることも分かっているとして、「しかし、これこそ死を覚悟した抗議行動だ。生命を賭けても、抗議せざるを得ない状況に追い込まれているのだ。それは、僧侶であろうが、一般市民であろうが、社会的にも、政治的にも、経済的にも厳しい差別や弾圧が日夜繰り広げられているからだ」とセンゲ氏は声を詰まらせた。

※SAPIO2016年4月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

遺体には電気ショックによる骨折、擦り傷などもみられた(Instagramより現在は削除済み)
《ロシア勾留中に死亡》「脳や眼球が摘出されていた」「電気ショックの火傷も…」行方不明のウクライナ女性記者(27)、返還された遺体に“激しい拷問の痕”
NEWSポストセブン
当時のスイカ頭とテンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《“テンテン”のイメージが強すぎて…》キョンシー映画『幽幻道士』で一世風靡した天才子役の苦悩、女優復帰に立ちはだかった“かつての自分”と決別した理由「テンテン改名に未練はありません」
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
《ヤクザの“ドン”の葬儀》六代目山口組・司忍組長や「分裂抗争キーマン」ら大物ヤクザが稲川会・清田総裁の弔問に…「暴対法下の組葬のリアル」
NEWSポストセブン
1970~1990年代にかけてワイドショーで活躍した東海林さんは、御年90歳
《主人じゃなかったら“リポーターの東海林のり子”はいなかった》7年前に看取った夫「定年後に患ったアルコール依存症の闘病生活」子どものお弁当作りや家事を支えてくれて
NEWSポストセブン
テンテン(c)「幽幻道士&来来!キョンシーズ コンプリートBDーBOX」発売:アット エンタテインメント
《キョンシーブーム『幽幻道士』美少女子役テンテンの現在》7歳で挑んだ「チビクロとのキスシーン」の本音、キョンシーの“棺”が寝床だった過酷撮影
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚することがわかった
女優・趣里の結婚相手は“結婚詐欺疑惑”BE:FIRST三山凌輝、父の水谷豊が娘に求める「恋愛のかたち」
NEWSポストセブン
タレントで医師の西川史子。SNSは1年3ヶ月間更新されていない(写真は2009年)
《脳出血で活動休止中・西川史子の現在》昨年末に「1億円マンション売却」、勤務先クリニックは休職、SNS投稿はストップ…復帰を目指して万全の体制でリハビリ
NEWSポストセブン
中川翔子インスタグラム@shoko55mmtsより。4月に行われた「フレンズ・オブ・ディズニー・コンサート2025」には10周年を皆勤賞で参加し、ラプンツェルの『自由への扉』など歌った。
【速報・中川翔子が独立&妊娠発表】 “レベル40”のバースデーライブ直前で発表となった理由
NEWSポストセブン
奈良公園で盗撮したのではないかと問題視されている写真(左)と、盗撮トラブルで“写真撮影禁止”を決断したある有名神社(左・SNSより、右・公式SNSより)
《観光地で相次ぐ“盗撮”問題》奈良・シカの次は大阪・今宮戎神社 “福娘盗撮トラブル”に苦渋の「敷地内で人物の撮影一切禁止」を決断 神社側は「ご奉仕行為の妨げとなる」
NEWSポストセブン
“凡ちゃん”こと大木凡人(ぼんど)さんにインタビュー
「仕事から帰ると家が空っぽに…」大木凡人さんが明かした13歳年下妻との“熟年離婚、部屋に残されていた1通の“手紙”
NEWSポストセブン
太田基裕に恋人が発覚(左:SNSより)
人気2.5次元俳優・太田基裕(38)が元国民的アイドルと“真剣同棲愛”「2人は絶妙な距離を空けて歩いていました」《プロアイドルならではの隠密デート》
NEWSポストセブン
『ザ・ノンフィクション』に出演し話題となった古着店オーナー・あいりさん
《“美女すぎる”でバズった下北沢の女子大生社長(20)》「お金、好きです」上京1年目で両親から借金して起業『ザ・ノンフィクション』に出演して「印象悪いよ」と言われたワケ
NEWSポストセブン