これまであまり馴染みのなかった「アドラー心理学」に関心が集まっている。『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)が大ヒットしたことを契機に、書店では特設コーナーが組まれたり、企業や教育現場でもアドラーに関するセミナーが開催されたりする大盛況ぶりだ。なぜ、ここまで人々を惹きつけるのか。
アドラーの思想を対話形式で描いた『嫌われる勇気』は2013年に刊行され、104万部の大ベストセラーとなった。今年2月末に刊行された続編『幸せになる勇気』もすでに20万部を突破し、その他の関連本の売れ行きも好調だ。
人気は海外にも広まり、韓国でもベストセラーを記録した。人気作家の伊坂幸太郎氏や石田衣良氏らが作中でアドラー心理学に言及するなど各界著名人にも信奉者は多い。
書籍だけではない。アドラー心理学を習得した専門カウンセラーによるカウンセリングやセミナーには子育てに悩む親や職場のコミュニケーション術に役立てようという企業の人事担当者らが盛んに訪れている。
アドラー心理学はオーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラーが20世紀初頭に創設した心理学だ。アドラーは欧米では精神分析の創設者・フロイトやユングとともに「三大巨頭」と並び称される。人生やビジネスにおける成功哲学を説いた『人を動かす』(創元社刊)で知られるデール・カーネギーも、アドラーの思想に色濃く影響を受けたという。
『嫌われる勇気』の共著者の一人で、日本アドラー心理学会顧問の岸見一郎氏はこう話す。
「心理学という名前がついていますが、アドラーの教えは『どうすれば幸福になれるのか』といったテーマを扱うので、むしろ“哲学”に近いといえます」
フロイト、ユングと並び称されながら、なぜ今になって、アドラー心理学は日本で脚光を浴びたのか。岸見氏が説明する。