異端のテレビマンが、名古屋にいる。連日劇場を満席にするドキュメンタリー映像作品『ヤクザと憲法』を手掛けた東海テレビのプロデューサーであり、過去、数多の問題作を世に送ってきた阿武野勝彦氏(57)である。衒いなきテレビマンの言葉は、日本社会の歪みを静かに浮かび上がらせる。(聞き手=中村計・ノンフィクションライター)
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『ヤクザと憲法』は、取材班にとって最高の「修羅場」だったかもしれない。事務所内にあったキャンプ用具を見て「マシンガンですか?」と聞くシーンがある。
──撮影中、突っ込み過ぎて、本当に鉄砲が出てきちゃったらどうしようみたいな心配はなかったのですか。
「ぼくたちがやっているのは“手ぶらドキュメンタリー”ですから。最初に筋書きを考えるというのは、大枠の自主規制じゃないですか。もし犯罪シーンに出くわしたら、その時はその時で考える。でも、彼らも“寸止め”してくるんですよ」
──寸止め? でも、映画の中には、あやしげなブツの売買シーンや、高校野球を見ながら札束を封筒に入れるシーンが出てきますよね。
「どんなに食らいついても、彼らは、これは覚醒剤だよとは言わない。野球賭博らしきシーンについても、賭博開帳図利罪は、賭ける側と胴元、両方そろわないと成立しないので、あのシーンだけでは立件できない。彼らがそれをわかっていたかは不明ですけど、常にぎりぎりを見せてくるんですよ」
そうした事実にこだわりつつも、一方では、あまりにも出来過ぎたシーンは捨てると話す。
「最終的に、どうだ、みたいな映像を見せなくて済むのは、時間をかけた余裕でしょうね。『ヤクザと憲法』も百日も通っていますから。これは臭いから見せないでおこう、とかができる。
いつも狩猟型ではなくて、農耕型取材をしようって言ってるんです。時間をかけて種を植え、水をまき、刈り取る。テレビマンって、獲物をバーンと撃ってやるんだみたいな感覚に陥りがちじゃないですか。そうじゃなくて、状況の中にカメラを持ち込んで、その中を漂ってみればいい。時間だけはたくさんあげるから、と」