3月12日、立命館大学・産業社会学部教授の唐鎌直義氏(社会保障論)が衝撃的なデータを公表した。
「65歳以上の高齢者がいる世帯で、年収160万円以下で暮らす層はこの5年間(2009~2014年)で24.6%から27.4%に上昇しました。私は1985年から高齢者の貧困問題を調査してきましたが、わずか5年で貧困率が3%近くも跳ね上がったのは、今回が初めてです。
日本の社会保障・福祉制度は『高齢者優遇』と評されてきましたが、高齢者を取り巻く社会環境を分析すると、そうした恩恵を受ける高齢者は確実に減っています」
唐鎌氏の分析は厚労省の国民生活基礎調査をもとに世帯構造別の貧困率を独自に試算したものだ。最低限の生活を送る境界線として生活保護受給者(東京都新宿区在住の単身者で1か月の受給額が13万3490円)と同程度の年収160万円を設定。それを下回る収入の高齢者を「貧困層」と位置付けた。
世帯数から貧困高齢者数を割り出すと、2009年の679万人から2014年には893万5000人と、5年間で約214万人も急増。総務省が昨年9月に発表した最新の人口推計によると、65歳以上の高齢者は約3384万人おり、およそ4人に1人が生活保護水準以下の収入で暮らしていることになる。
特に貧困率が急増したのは男性の独り暮らし世帯だ。貧困率で4%以上、人数では29万人増加している。
高齢者の“下流化”が加速度的に進んでいることは一目瞭然だが、注目すべきは新たに発生している貧困高齢者の多くは定年まで真面目に働き、年金を納め続けてきた“普通のサラリーマン”であることだ。
「地道に働き続ければ、つましくても困ることはない老後生活を送れる」という常識は崩壊し、誰もが貧困層になるリスクと隣り合わせになる――そんな「新・下流老人」の時代を迎えたといえる。貧困高齢者が急増した理由を唐鎌氏はこう分析する。
「年金給付額の減少です。総務省の家計調査年報などから推計したところ、無職の高齢夫婦世帯ではこの7年間(2007~2014年)で年金給付額は月額で1万6000円、年間では約19万3000円も減少しています。例えば、年金収入が年180万円程度あったものの、年々給付額がカットされ続けたことにより、160万円以下に転落した人も少なくありません」
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号