高齢化が進む日本社会において大きな問題となっている介護。施設に入れたり、ヘルパーを頼んだりするにはお金がかかる。それが頼めなければ家族が看るしかなく、金銭的にも肉体的にも大きな負担がのしかかる。介護離職や、老々介護の末の殺人事件も後を絶たない──。
しかし、国の予算がない、現場の人手も足りない、増える高齢者。介護問題の解決策が見えない状況のなか、町ぐるみで取り組んでいる自治体もある。
福岡県大牟田市では、2004年から毎年、認知症SOSネットワーク模擬訓練を行っている。市内全域の小学生を含めた3000人以上が参加し、認知症役の高齢者を発見して声かけをする。歩いている高齢者を見つけると、警察に通報。FAXや市のメール配信システムなどを通して、公共交通機関や市民に情報伝達される。この取り組みは、実際に効果をあげているという。介護に詳しい健康社会学者の河合薫さんはこう話す。
「米国やカナダでは、介護ビジネスが発達し、社会というより企業が面倒を見る体制になっています。また、フロリダなど温暖で暮らしやすい地域のなかには、娯楽施設の充実や、移動が全てゴルフカートでできるなど、高齢者が住みやすい街作りがされていて、高齢者は積極的に移住しています」
オランダには認知症患者が適切なケアを受けながら、“普通の人と同じように生活できる”村がある。アムステルダム郊外のその村には、スーパー、劇場、美容室やレストランなどがあり、一見すると普通の街並みだが、そこに住むのは全員認知症と診断された人だ。介護を行うヘルパーや医師は住人たちとともに生活しながらサービスを運営する。
村人は村の中をどこでも自由に移動ができて、普通の生活が送れる。万引きしても、村の中ならおとがめナシだ。
入居にかかる費用は老人ホームなどに比べると安価で、村人たちは食欲が増したり、寿命が延びたりするなどの傾向も見られるという。
「国が手厚く面倒を見るのは北欧です。スウェーデンなどはひとりあたりの社会保障負担は日本の約2倍とすごく高いですが、そのぶん国は最後まで面倒を見てくれる。老人ホームなどの施設サービスも地方自治体が担い、ホームヘルパーサービスも充実している。若い人たちは、自分の老後のためにお金を払っていると思えるのです。
日本は、日本型福祉社会と呼ばれ、“介護・育児は家族で!”という1970年代後半に示された方針を続けています。家族のカタチもライフスタイルも変わったのに、国がしっかりとした指針も示さずに、“とりあえず家族に”と曖昧にしていることが問題です」(河合さん)
※女性セブン2016年3月24日号