【著者に訊け】柚木麻子さん/『幹事のアッコちゃん』/双葉社/1296円
【本の内容】
『ランチのアッコちゃん』『3時のアッコちゃん』に続く第3弾。「東京ポトフ&スムージー」社長として活躍する傍ら、ますます面倒見のいいアッコちゃんに元気をもらえる。衝撃の展開に次回作の有無が気になるが、「濁しておきます。『またどこかでお逢いしましょう』という感じですかね」(柚木さん・以下「」内同)。
累計40万部に迫る人気シリーズ。「NOと言えない」派遣社員だった三智子は商社の正社員となり後輩を心配する立場に。表題作では、その宴会嫌いの後輩に、「東京ポトフ&スムージー」社長になった「アッコちゃん」が忘年会幹事の極意を伝授する。
「私、シリーズものって初めてなんです。第1作の『ランチのアッコちゃん』を書いたときにはそんなことまったく考えてなくて──それで寅さんの話になるんですけど」
寅さん? 映画『男はつらいよ』の「フーテンの寅」?
「あの映画だってもともとシリーズ化を考えて作られたものじゃないですよね。寅さん映画を見ると、初期設定を崩しちゃいけない大変さがわかるようになってきて。寅さんは誰とも結ばれてはいけないし、マドンナは幸せにならなきゃいけない。葛飾柴又の善男善女は危険な目に遭っちゃいけない。私も、見切り発車で決めたいろんなことに自分が苦しめられていて―と言いつつ、楽しんで書いてるんですけどね」
聞けば柚木さんは、親しい編集者と『男はつらいよ』についてしゃべる会、というのをつくっているそう。言われてみると、ポトフを移動販売し、行き当たりばったりながら出たとこ勝負に強い「アッコちゃん」の不思議な愛されかたには、寅さんに通じる何かがある気がしてくる。
会社員を描く小説だけに、おもに月曜日から金曜日までの5日間の出来事がテンポよく語られる。
「この作品はスピーディーなところが良さなので。私はスムージーを自分でつくれなんて書かないし、コンビニの野菜ジュースだっていいと思う。時間をかけて丁寧に暮らすのはすてきなことだけど、すごく頑張って仕事している女の人に『丁寧に暮らせ』っていうのはちょっと暴力じゃないかな、って気がします」
シリーズの担当編集者とは、学生時代、就活を通して知り合ったそうだ。新人賞を受賞してデビューして数年、なかなか原稿が載らない時期に、道でばったり再会した。
「『え? 作家デビューしたの?』って全然信じてくれなくて。『うちの雑誌に載せて10万部出してやるよ』みたいなことを言って、彼は約束を果たさなきゃいけなくなったんです」
そんな偉そうなこと言ってません、と同席する編集者氏が抗議する。
「だって伝わりやすいじゃないですか」「デフォルメはやめてください」。小説みたいなやりとりが続く。
「私は会社員時代からとにかく上の人にガミガミ言われる性格で、そんな先輩たちの集合体が『アッコちゃん』です。この作品がなかったらたぶん他のこともうまくいかなかった。『アッコちゃん』のおかげです」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2016年3月31・4月7日号