立命館大学・産業社会学部教授の唐鎌直義氏(社会保障論)が厚労省の国民生活基礎調査をもとに世帯構造別の貧困率を独自に試算したデータが注目を集めている。最低限の生活を送る境界線として生活保護受給者(東京都新宿区在住の単身者で1か月の受給額が13万3490円)と同程度の年収160万円を設定。それを下回る収入の高齢者を「貧困層」と位置付けた。
世帯数から貧困高齢者数を割り出すと、2009年の679万人から2014年には893万5000人と、5年間で約214万人も急増。およそ4人に1人が生活保護水準以下の収入で暮らす「下流老人」になっていることになる。
年収160万円以下での生活は、常に「老後破産」の危険と隣り合わせだ。ファイナンシャルプランナーの藤川太氏が指摘する。
「総務省の家計調査年報などによれば、65歳以上の2人世帯で必要な生活費は月額23万円。対して同世帯の平均収入は月額21万円ですが、実際は住民税などが引かれるため手取りで18万円程度。
平均収入世帯でさえ、すでに必要額に対して5万~6万円のマイナスになる。それでも平均程度の収入があれば、大病に見舞われるなどして大きな出費を強いられなければ最低1500万円の貯蓄で、65歳から90歳までの25年間、何とか過ごせます。しかし年収160万円世帯で同じ生活をしようとすると、最低でも3000万円程度の貯蓄が必要になる計算です」
唐鎌氏は「年収160万円程度の貧困高齢者は貯蓄も低い」と指摘しており、3000万円という数字はほとんどの人がクリアできない。昨年以降、高齢者の破産相談が増えていると話すのは、都内のNPO法人の代表だ。
「年間200万円に満たない年金収入で暮らしながら、いまだローン返済を抱えている高齢者は少なくありません。多くの場合、40歳前後で35年ローンを組んでしまった人たちで、“当時の景気の良さから業界の先行きを見誤った”と、悔やんでいます。
勤め先の業績が傾くと給与も退職金も激減。年金生活に入る前に、なけなしの退職金や貯蓄を全額充てても、ローンの完済には至らなかったようです」
ローン残高が一向に減らないので自宅を売却したが、それでも残債が1000万円近く残り、今度はローン返済と新しい住居の家賃の二重苦に襲われる。そんな悪循環に陥った高齢者が自己破産の相談にやってくるのだという。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号