大阪市立茨田北中学の校長の全校集会での発言が波紋を呼んでいる。フリーライター・神田憲行氏が考える。
* * *
発言したのは寺井寿男校長。寺井校長は「発言の一部を切り取られて誤解を招いている」として、発言要旨を一時、同中学のHPにアップしていた。現在は削除されているその文章を読むと、たしかに後半部分には首肯できるところもある(引用は「産経ニュース」より)。たとえば、
《次に男子の人も特によく聴いてください。子育ては、必ず夫婦で助け合いながらするものです。女性だけの仕事ではありません。》
はその通りだと思うし、
《人として育ててもらった以上、何らかの形で子育てをすることが、親に対する恩返しです。》
というのもわかる。私は子どもがいないが、他人の子どもでも「国の宝」だと思っているので、いま話題の保育所問題には関心がある。
だがそれでもなおやはり、冒頭の発言は問題だと考える。
《今から日本の将来にとって、とても大事な話をします。特に女子の人は、まず顔を上げてよく聴いてください。女性にとって最も大切なことは、子供を2人以上産むことです。これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値があります。》
《「女性が子供を2人以上産み、育て上げると、無料で国立大学の望む学部に能力に応じて入学し、卒業できる権利を与えたらよい」と言った人がいますが、私も賛成です。子育てのあと大学で学び、医師や弁護士、学校の先生、看護師などの専門職に就けばよいのです。子育ては、それほど価値のあることなのです。》
相手は中学生の女の子だ。将来は歌手とかモデルになりたいとか、フワフワした夢持ってる子もいるだろう。中学にに上がってやっと勉強が好きになった子もいるだろう。子供の6人に1人が貧困の時代である。早く家計支えたい子も、逆に早く家を出たい子もいるだろう。
それらを全部なぎ払って、学校でいちばん偉い先生から「子供を2人産みなさい」と言われたときの衝撃度を想像してほしい。「先生が思ってるのとは違う生き方したいのです」という勇気もない子どものために、代わりに言ってやるのが大人の責任ではないか。
発言は大阪市議会でも問題視されているが、恐らく寺井校長はまだ自分が批判されている理由がよくわかっていないだろう。その顔が想像できる。
私もいろんな学校の先生を取材してきたが、他の取材では出くわさないような顔を見るときがある。彼らが自分の教育論や指導論を語っているときに、「いやでも先生、それは……」と質問を挟むと、ポカンとするのだ。きょとんとするときもある。それで取材が止まる。