人間がハンドルを握らなくても、コンピュータが人混みの市街地を巧みに運転し、時に高速道路を疾走して遠方の目的地まで運んでくれる――。そんな「自動運転車」の開発が、日進月歩で進んでいる。
だが、近い将来、運転手不要のクルマが当たり前のように普及する時代が本当にやってくるのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏は、懐疑的な見方をする。
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自動車の世界で近年、開発競争が激化している“自動運転技術”。日本でも昨年、自動運転に前がかりになっている日産自動車が高速道路、一般道の両方を自動で走るための公道実験を開始。今年1月にはアメリカのEVベンチャー、テスラ・モーターズの「モデルS」にオプション設定されるセミ自動運転機能「オートパイロット」の使用ができるようになった。
安倍政権は2020年の東京オリンピックまでに自動運転の実用化のみならず、普及もさせると息巻く。
気の早いメディアの中には、運転免許がいらなくなる、手動運転車は10年もしないうちになくなる、果てはドライバー不要の時代が来るといったセンセーショナルな論調の記事を掲載するところも出てきている。が、本当に自動運転車が走り回る日がそんなに早くやってくるのだろうか。
「もちろん自動運転の技術は重要だし、ウチも昔から継続的に研究してきました。また、本当に完全自動運転が実現できれば、一定のニーズもあると思う。しかし、今の自動運転ブームは完全にムードが先行してしまっていると思います。
コンピューティングの世界で機械学習(コンピュータが自分で経験を積み、知見や予見を得る技術)がクローズアップされるにつれて、人工知能(AI)が人間を支配するなどというSFまがいの話がもてはやされているのと似ています」
昨年、新たにAI研究のためのラボラトリー、トヨタリサーチインスティチュートを設立するなど、クルマの知能化のための基盤技術強化を加速させているトヨタ自動車のAI研究者の一人は、自動運転の意義は認めながらも、今のブームは過熱ぎみだという見方を示す。
この研究者が引き合いに出した機械学習が長足の進歩を遂げていることは、クルマの運転を自動化させたほうがいいという風潮に拍車をかけている。
先日もGoogle傘下のラボラトリーが開発した囲碁ソフト「アルファ碁」が韓国のトッププロを打ち負かし、世界ランキング2位になった。この“学ぶコンピュータ”が小型・高性能化すれば、ハンドルのない自動運転車の公道実験で脚光を浴びたGoogleが主張する通り、もはやクルマの運転で人間の出る幕はなくなるのか。