今後、すべての国民は公的年金の給付減と、社会保障費の負担増というダブルパンチに見舞われることになる。そのダメージを大きく受けるのは、むしろ現在65歳以上の高齢者よりも、もっと下の世代だ。
高齢者は、納めた年金保険料より受給額が上回る、いわゆる「逃げ切り世代」である。受給額がマイナスとなる「逃げ切れない世代」に比べればまだマシだと言える。
本誌は “年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏の協力のもと、「逃げ切り世代」と「逃げ切れない世代」のボーダーラインがどこにあるのかを試算した。
試算条件は、「年収600万円の男性」をモデルとし、「厚生年金保険料の払い込み期間40年」、「保険料率は13.58%を四捨五入」するなど、可能な限りシンプルにした。その結果、ボーダーラインは60歳だと判明した。北村氏が言う。
「受給開始年齢65歳から80歳までの、受給額と払い込み保険料との差額を試算すると、1954年度生まれ以前の方たちがプラス受給となることがわかりました。一方、1957年度生まれ以降の方たちがマイナス受給となっています」
年齢が上がるほどに年金収支はプラスになる。年金の給付減の影響が少ない80歳の人(1936年度生まれ)だと約1260万円(年金受給額4618万円、払い込み保険料との差額:+1258万円)の“受給超過”。55歳の人(1961年度生まれ・年金受給額3000万円払い込み保険料との差額:-360万円)と比べると約1620万円の差がある。
59歳以下の世代には「新・下流老人」の予備軍が大勢控えているともいえ、今後、老後破産のリスクを抱える高齢者が増大することは避けられない。
年金以外の介護や医療(組合健保)も含む社会保障全体を考慮した内閣府の試算「社会保障を通じた世代別の受益と負担」(2012年)でも“納め得”“払い損”のボーダーラインは61歳になる。
同試算で用いているのは「生涯純受給率」という指標だ。これは、生涯で受け取る受給額から、生涯で納めた保険料と自己負担額を引き、それを生涯収入で割ったもの。簡単に言えば、年金などの社会保障から得られる金額の生涯収入に占める割合を表わしているものである。
この内閣府の試算によれば、1955年度以降に生まれた61歳以下の若い世代は、生涯を通じて得られる社会保障(年金・介護・医療)サービスの「受益」より、納める保険料などの「負担」のほうが多くなる“不遇の世代”だ。
たとえば1960年度生まれの人は、生涯収入の5.3%も“払い損”をすることになる。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号