人気女優が“歌う”CMが増えている。アパレルブランド「earth music&ecology(アースミュージックアンドエコロジー)」のCMでザ・ブルーハーツの『1001のバイオリン』を口ずさむ宮崎あおい(30)。「Y!mobile(ワイモバイル)」のCMで『ヤングマン』を振付つきで歌う桐谷美玲(26)。NTTドコモのCMで氷川きよしの『きよしのズンドコ節』の替え歌を歌い、かんぽ生命保険のCMでミュージカルに挑む高畑充希(24)。ユニクロの姉妹ブランド『GU(ジーユー)』のCMでは波瑠(24)、香椎由宇(29)、山本美月(24)の3人が山口百恵や尾崎豊の名曲を歌っている。
これまでは、人気アーティストを起用することでCMが話題になり、タイアップ効果でCDも売れるという図式が長らくあった。歌が本職ではない女優に歌わせることで、CMの製作サイドはどんな効果を狙っているのだろうか。
博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんはこう分析する。
「狙いとしてはいくつか考えられますが、一番は『意外性』です。テレビ離れが進む中、CMをつくる側は『どうすれば視聴者の関心を引くことができるか』を常に考えています。今は普通に歌手が歌うだけでは話題になりにくい。歌手以外の、本来歌わない人が歌ったほうが、意外性があって話題になりやすいのです」(原田さん・以下「」内同)
確かに、普段歌を披露することのない女優が歌っていれば、「どんなふうに歌うんだろう」と気になるところではある。女優に限らず、男性の俳優でも同じことがいえそうだ。auのCMで桐谷健太が歌う『海の声』は、音楽配信サイトで上位にランクするヒットソングとなっているが、これも「俳優なのに歌がうまい」という意外性がネット上では話題になっている。
「視聴者からすれば、『観たいCM』と『飛ばしたいCM』があります。これまでは旬の芸能人を出すだけでもよかったのですが、今はそれだと素通りされてしまう。これは視聴者と芸能人の距離感が変わってきたからだといえます。
昔は、芸能人のプライベートが謎に包まれていて、視聴者はその芸能人が普段どんな生活を送っているのか、想像するしかありませんでした。ところが今は、SNSで芸能人自らがプライベートの情報を発信するようになったこともあり、視聴者が芸能人のこと知り尽くしたかのような感覚になっています。そのためCMに出る芸能人には、変わったことをしてもらわないと人々の心をつかみづらくなっているのです」
つまりこれからの芸能人には、本業でないこともこなせるマルチな才能が求められているということだ。このような流れが来ている背景には、「若者たちの憧れの人間像の変化」があると原田さんは言う。