3月25日から各地で一斉に開幕を迎えるプロ野球。野球賭博スキャンダルという爆弾を抱えつつも、スタジアムは球春を待ち望んだファンで埋め尽くされた。だが、その「春」は、すべての選手に等しく訪れるわけではない。
2015年オフ、在籍球団のユニフォームを脱いだプロ選手は186人(セ・90人、パ・96人)に上る(本誌調べ)。前田健太(広島→ドジャース)、ら移籍組も含まれるが、多くは「引退」を受け入れた選手たちだ。
とくに大物選手の引退が目立った。中日からは山本昌、谷繁元信、小笠原道大、和田一浩。巨人では、新監督に就任した高橋由伸をはじめ、井端弘和、金城龍彦。他球団でも斎藤隆(楽天)、西口文也(西武)、谷佳知(オリックス)などビッグネームが並ぶ。
指導者として請われて退いたり、自ら引き際を選べるのはまれで、一時代を築いた選手でも戦力外と見なされればたちまち職を失う。そんな厳しい世界で現役を続けるのは至難の業だ。
しかし、たとえ球団から引導を渡されたとしても、引退せず「現役続行」にこだわり続ける男たちがいる。
明治大、そして中日のエースとして、ライバルの巨人・高橋新監督に立ちはだかった川上憲伸(40)もそのひとり。通算125勝。2000年代前半、高橋由、松井秀喜、清原和博らを擁する巨人の強力打線を気迫で抑え込んだ投球は、ファンの記憶に刻み込まれている。
しかし、彼はまだ自分の野球人生に納得できていない。10月の中日退団時には、現役続行を目指すと断言。「中日から水面下で投手コーチ就任の打診を受けたが、首を縦に振らなかった」(スポーツ紙記者)といわれ、あくまでも選手としてNPB復帰を目指している。
「まだ野球に没頭したい。野球少年でいたかった。限界に近いのは分かっているが、限界を越えてまでもやりたい」──そう語った会見直前の9月末には、右太ももの筋膜を右肩の棘上筋に移植する「腱板損傷の再建術」を受けており、リハビリは現在も続いている。川上は「しっかりブルペンに入れるようになれたら、中日のテストを受ける」と発言しており、決意は固い。
昨年、オリックスを戦力外になった井川慶(36)も、現役続行先を探している。
2月26日の自身のブログでは〈今季の所属チームは決まっていません。それでも、現役続行の意思に変わりはありませんし、いつどの球団からテストしたいと連絡いただいても対応できるように、トレーニングを続けています〉と綴った。
2014年オフに横浜を自由契約になった中村紀洋(42)も、すでに名球会入りしながらも「生涯現役」にこだわっている。兵庫県西宮市内で小中学生を対象にした野球教室を開きながら、自主トレを続ける日々だ。
※週刊ポスト2016年4月8日号