ぼくの本の選び方は「こだわらないこと」。今回はたまたま小説を挙げたが、ジャンルは問わない。新聞や雑誌の書評や読者レビューを参考にしたり、書店で目についたりしたものを、気構えずに選ぶ。
ネットで本を買うと、購買履歴から好みを予測して、次々にオススメしてくれる。ありがたいが、好みの本ばかり読んでいると、世界が狭くなる。ときには自分の好みへの裏切りも必要なのだ。
ここ1年くらいは、今まであまり読まなかった恋愛小説を読んでいる。『私の恋人』(上田岳弘著、新潮社)は秀逸だった。時空を超えて生まれ変わる「私」が、10万年という時を超えて恋をする。人類の歴史と、一人の人間の息苦しさが交錯し、読み応えがあった。
現在は、中東を舞台にしたミステリー『バビロンの秘文字』(堂場瞬一著、中央公論新社)を2巻まで読んだところ。
読書の魅力は、“異文化交流”だと思う。自分の知らない知識、文化、思考に触れ、自分の立ち位置を確認しながら、本の中の相手を理解する。自分だけの世界は安全で心地よいが、世界が狭くなってしまう。読書は、そんな殻を打ち破り、思考の可動域を広げていく準備運動のようなものなのだ。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ!』『死を受けとめる練習』。
※週刊ポスト2016年4月8日号