高倉健の映画を観てヤクザの世界に足を踏み入れたという男は多い。しかし、高倉健映画が一番“リアル”かというとそうでもないらしい。本物のヤクザが唸ったリアルな名作を紹介しよう。
「『演技のヤクザ』と『本物のヤクザ』の違いを理解できる作品」(ジャーナリスト・鈴木智彦氏)と言われるのは『血と掟』(1965年/松竹)。当時、原作自伝を書いた主演の安藤昇は、安藤組の解散・引退から1年ほどしか経っておらず「ほぼヤクザ」だった。
安藤と交流のあったヤクザはこの映画を、「安藤さんはとにかくチャカが好きでチャカを知ってる人だった。軽々しくバンバン撃ちまくるような映画に比べて、静かにグッと銃を持つ安藤さんの姿は、ズッシリとした本物のチャカの重量感を感じた」と語る。
40代現役幹部が「ドアを蹴破って殴り込むなんてせず、戦略的に攻め入るのはまさにあのころの山口組のやり方」
というのは、昭和35年に大阪で起きた抗争を描いた『実録外伝 大阪電撃作戦』(1976年/東映)。この映画は、抗争相手の尾行や追いつめ方、バリケードの裏を組織的に突く、訓練された襲撃の仕方がリアルだという。作家の影野臣直氏が解説する。
「昭和35年というと、まだ組員に徴兵経験者が多くいた時代。当時の山口組はヤクザというより軍隊的だった」
『シャブ極道』(1996年/大映)では、ヤクザの立ち回り以外にこんな“リアル”も。
「映画のストーリーは荒唐無稽だけど、クスリが切れたとき、汗ダラダラで異常に腹が空いたり喉が渇く姿は真に迫っていた。スイカにシャブを振りかける場面には思わず唸った。クスリの切れ目は異常に喉が渇く。そういうことがわかっている人が作っているね」(40代事務局長)
本物を知る現役ヤクザの視点はやはり我々の思い描くリアルとは違うようだ。
※SAPIO2016年4月号