和服姿で「すこし愛して、ながーく愛して」とささやくサントリーウイスキーのCMで世の男性を虜にし、その台詞そのままに長く愛された大女優・大原麗子。そんな彼女の鮮烈な写真が表紙を飾った雑誌があった。大原の大ファンだったという50代男性が振り返る。
「あれは……いま思い出しても衝撃的です。目を閉じた大原さんの横から膨大な量の水がぶっかけられ、顔半分がびしょ濡れでしたからね。一体、何の雑誌なんだろうと驚きました」
その雑誌とは、『ザ・ベストマガジン』の創刊号である。1984年4月の創刊当時は先述したCMも放送中で、「好感度ナンバーワン女優」だった大原が顔面に水をぶっかけられる表紙は世に大きな衝撃を与えた。『エロの「デザインの現場」』(アスペクト刊)の著者で、様々な成人向け雑誌のデザインを手がけたデザイナーの有野陽一氏が内幕を明かす。
「今も昔も男性誌の表紙を飾る女優さんは笑顔が基本。そんな常識を壊すために、創刊にあたり“とにかく過激な雑誌にしよう”という路線に決まって、“どうせなら誰もが知っている一流女優に水をかけよう”となったそうです。初代編集長の印南和磨さんが多くの芸能プロにパイプを持っていたので、大女優の大原さんをキャスティングできた」
雑誌は爆発的な人気となり、創刊年の12月には100万部を超え、最盛期は107万部に達し、成人向け雑誌というジャンルの枠を超えた存在となった。1980年代半ば、出版界は成人向け雑誌ブームが花盛りだった。中でも2大雑誌と呼ばれたのが『ザ・ベスト』と、『デラべっぴん』(英知出版。1985年創刊)だった。
若者たちを“ベスト派”と“べっぴん派”に取り込むために切磋琢磨した両誌の表紙には違いがあった。『デラべっぴん』が人気AV女優を起用する一方で、『ザ・ベスト』は、大原以降も大物女優が続々と登場。坂口良子、加賀まりこ、萬田久子、田中好子、十朱幸代、岩下志麻、倍賞美津子といった錚々たる女優陣を“びしょ濡れ”にしてきた。
今ではとても考えられない話だが、大原が先陣を切ったことで「あの大原さんがやったのなら」と後続の女優を生んだのだという。
「『ちょっと水をかけるだけです』と交渉していたので、『話が違う!』と怒られたことも多かったとか。シャッターチャンスを逃したらメイクや髪のセットもやり直し。女優さんの我慢の限界もあるから3テイクが限度だったそうです」(同前)
※週刊ポスト2016年4月8日号