「私の著書においての誤記は口述筆記においての単純な作業ミスで、このことについて私は誤りを認め、編集部にもお詫びと訂正を迅速にやってもらった。ただ、そんなことを大新聞がわざわざ記事にする必要があるのでしょうか」
こう憤るのは、右派論客として知られる弁護士のケント・ギルバート氏。同氏の新刊『やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人』(PHP研究所)が、動画投稿サイトに投稿されていた情報を誤って梶谷懐・神戸大学大学院教授の見解として紹介していたことを朝日新聞が2度にわたって報じたことに腹を立てているのだ。
1度目の記事(3月8日付)では、
〈同社によると、ライターがギルバート氏に複数回インタビューし、原稿をまとめた。その過程でライターが、ギルバート氏が引用した「PRC」(中華人民共和国)についての発言者「KAZUYA」を「カジヤ」と聞き間違えた。その後、ネットで検索し、梶谷教授の名前が中国関連の記事と一緒に出てきたことから、肩書きも加えたという〉
と、誤記の経緯まで詳細に記述し、2度目の記事(3月10日付)では、PHP研究所が初版本を回収したことを報じた。これに対し、ギルバート氏はこう嘆く。
「紙面を割いてここまで書くのは、私の著書がそれほど重要だからでしょうか(笑い)。あるいは、本書で自虐史観を広めた新聞として朝日が登場していますから、こんな反応をとったのかもしれませんね」
と推測し、こう続ける。
「私のミスの経緯を詳細に報じる暇があるなら、朝日新聞が2014年に認めた慰安婦問題の誤報の訂正記事を英訳して海外にきちんと発信すべきではないでしょうか。朝日の誤報に基づいて、『日本軍が朝鮮半島で多くの女性を強制連行して慰安婦にした』という間違った認識がいまだに世界でまかり通っています。誤りは誰でも起こしますが、その後の対応こそ重要です」
朝日新聞はギルバート氏の著書に関する記事について、「(本の記述と取材は)関係ありません。誤報を長年放置したことに対する弊社社長のおわびなどを英訳し、英文メディアで発信しています」などと回答した。
ちなみに「間違われた側」の梶谷氏には、出版社からの謝罪はあったものの、ギルバート氏からの直接の謝罪はなかったそうだ。
※週刊ポスト2016年4月8日号