参議院選挙を控え、来年4月に予定されている消費税10%への増税凍結の流れが決定的になった。消費税率引き上げが安倍政権下で「完全凍結」された場合、日本経済にどんな効果をもたらすのだろうか。
経済の長期予測に定評がある投資ストラテジストの武者陵司・武者リサーチ代表は「その時こそ企業や消費者のマインドが大きく変わり、日本経済の起爆剤になる」と予測する。
「いまや日本経済は企業が過去最高の利益をあげ、国全体として富を稼ぐ力が完全に戻っている。それなのに景気は回復しない。最大の原因が消費増税です。みんなが『今はいいけど、来年、増税で景気が悪くなる』と思っているから、企業は利益を稼いでも給料を思い切って上げることができない。個人は稼いだカネを消費に回せず、投資家も経済の先行きに大きなマイナス材料があるから萎縮してしまう」
消費増税スケジュールが経済回復を上から押さえつける「重いフタ」になっているのだ。武者氏はこう続ける。
「仮に消費増税が完全凍結されれば、企業や投資家、消費者が抱いている最大の不安材料が一気に解消する。そうなれば企業は景気回復を見込んで稼いだ利益を安心して設備投資や賃上げに回すことができるし、個人は消費や投資を増やせる。日本にはすでに稼ぎながら使い途がない富があるのだから、マインドが変わるだけで資金は本来の好循環に向かうはずです。増税凍結はそれを促す大きなインパクトを持つ」
そのことは財務省の法人企業統計からも明らかだ。安倍政権下の3年間に企業の利益剰余金(内部留保)は81兆円増加し、355兆円(昨年10~12月期)へと膨れあがっている。アベノミクスによる円安や株高で生み出された国富といっていい。
しかし、その間、労働者の実質賃金は下がり続け、「従業員給与」の総額は3年間でおよそ29兆円から28兆円へと1兆円減った。
稼いだ富が賃金に回らず、増税で国民の実質所得が減少して消費は回復しない。まさに経済の悪循環だ。
そこに消費税の増税凍結をすればどれほど大きな経済効果をもたらすか。2014年10月、安倍晋三首相が英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、増税の先送りを示唆したことをきっかけに消費増税先送り観測が広がり、市場では円安・株高が一気に進んだ。為替レートはそれから2か月間で13円もの円安に振れ、日経平均株価はおよそ2100円アップした。
当時は日銀も大規模金融緩和(黒田バズーカ第2弾)で円安・株高を後押ししたとはいえ、増税の実施時期をわずか1年半延期(2015年10月→2017年4月)しただけでそこまでの相乗効果を生んだのである。
それが「完全凍結」となれば、効果はより大きくなる。
※週刊ポスト2016年4月8日号