健康意識の高い人ほど、「毎日1万歩歩けば健康になる」「歩けば歩くほど健康になる」などと考え、家事や散歩などを通して積極的に歩こうと励んでいることだろう。確かに、健康目標として「1日1万歩」は一般的に広まっている。
しかし、そんな世間の“常識”に「NO」を突きつけるのは、東京都健康長寿医療センター研究所 医学博士で、『やってはいけないウォーキング』(SB新書)の著書がある青栁幸利さんだ。
「実は、1日1万歩以上歩いていても、健康を害してしまうことがあるんです。たとえば、ある旅館の、77才になる女将さんは、毎日1万歩以上歩いていたにもかかわらず、骨粗しょう症になってしまいました。というのも、女将さんが歩いていたのは館内だけ。着物を着ているため小股で歩いており、歩数は多かったのですが、歩き方の“強さ”が足りなかったんです。充分な強さのない静的な動きの場合、疲労しやすくなりますし、骨や筋肉に刺激が少ないので、骨粗しょう症や要介護になるリスクの高いロコモティブシンドローム(運動器症候群)になる危険性があります」
さらに、70才のある男性は、毎日愛犬の散歩をしていたにもかかわらず、うつ病を患ってしまったという。その男性は犬の散歩で疲れてしまい、それ以外の時間はソファで横になって過ごしていた。「自分は毎日散歩している」という思い込みで安心してしまい、実際には日々の運動量は不充分で不調をきたしてしまったのだ。すなわち、「1万歩歩いているから」「毎日歩いているから」という自己判断はアテにならないのである。
青栁さんは、自身の故郷・群馬県中之条町の住民5000人に協力してもらい、身体活動計を装着して15年間、24時間365日、行動を調査した。その結果、健康寿命がグンと延びる究極のウオーキング法が見つかったという。
「正しいウオーキング法は、『歩数』と『運動強度』という2つの観点から考えなければなりません。今まで歩数を気にしていたかたは多かったのですが、ほとんどの人は強度を考えていませんでした。強度とは、重力に逆らって上下運動する際に起こる刺激のこと。これが、骨密度や筋肉量の維持に大きな影響を与えます。中之条町の住民の膨大なデータを分析したところ、理想的なウオーキングは、ずばり1日の総歩数8000歩、そのうち20分間は中強度の歩行をすることだとわかりました」(青栁さん)
「中強度の歩行」とは聞き慣れないが、どれくらいの強さなのだろうか。
「“なんとか会話ができる程度の速歩き”のことです。鼻歌が歌えるくらいの状態だと、遅すぎますし、競歩などのように会話ができないほどの歩き方だと速すぎます」(青栁さん)
正しいウオーキングを行えば、要介護生活、うつ病、認知症、脳卒中、心筋梗塞などの心疾患などの万病の予防が期待できるという。
※女性セブン2016年4月14日号