紆余曲折を経て新国立競技場に採用された隈研吾氏のA案が、多くの問題を孕んでいることが発覚した。その競合相手だったB案の設計者である伊東豊雄氏は、「建設工事がこのまま進めば、必ず負の遺産になる」と嘆く──。
「昨年9月、競技場の事業主体であるJSC(日本スポーツ振興センター)が募集要項を発表した直後に、“設計図案に聖火台は必要ですか?”との質疑がありましたが、“本事業の対象外”という回答でした。
コンペに出す提案書に聖火台のイメージ図を盛り込みたかったのですが、“いらない”と言われて驚いた。今になって、聖火台をどこに置くか、主催者側がまったく考えていなかったと知り、さらに驚かされた」
こう話すのは2013年、「建築界のノーベル賞」と呼ばれる米プリツカー賞を受賞した国際的建築家の伊東豊雄氏だ。
JSCは昨年12月、2020年東京五輪のメインスタジアムとなる新国立競技場(以下、新国立)の建設に関して、隈研吾氏と大成建設、梓設計が取り組んだ「A案」を採用。伊東氏や竹中工務店、大林組JVなどの「B案」は敗れた。
2019年11月の完成に向け新国立の建設はA案でスタートしたのだが、今年3月初旬に競技場の設計図から五輪のシンボルである聖火台が抜け落ちていることが発覚。3月31日、遠藤利明・五輪相、舛添要一・東京都知事、森喜朗・組織委員会会長による緊急会談が開かれ、設置場所について協議された。
だが、それで聖火台問題が解決されるわけではない。伊東氏が続ける。
「A案の設計では、スタンドを覆う屋根は木材とスチールを組み合わせた構造です。木材部分の可燃リスクは消えず、仮に聖火台を天井近くに設置すれば、そのエリアの屋根を外す必要が生じます。またスタンド席近くに置けば、その付近の観客席は取り払わなければならない。いずれにせよ、当初の設計プランから変更せざるを得ない」
プラン変更──新国立の建設が始まって以降、何度も聞いた言葉だ。ちなみにB案ならば、「バックスタンドの最上段を聖火台の設置場所として想定済み」(伊東氏)だという。
※週刊ポスト2016年4月15日号