マーケティング・アナリストの三浦展氏は11年前にベストセラー『下流社会』(光文社新書)で「下流」という言葉を世に出したが、新刊『下流老人と幸福老人』(同)のなかで、「下流老人」の実像を浮かび上がらせた。
三浦氏は三菱総合研究所による最新のシニア調査や自身が所長を務めるカルチャースタディーズ研究所によるアンケート調査などをもとに高齢者の経済状況やライフスタイルを分析した。
それによると、65歳以上の高齢者の金融資産総額は平均2772万円だが、1億円以上の資産を持つ上位3.3%の高齢者が資産全体の29.7%を保有しており、人口比率で最も多いのは資産「500万~1000万円未満」(15.1%)だ。
三浦氏はこの金融資産の額をもとに線引きをし、「2000万円以上」を「上流老人」、「500万円未満」を「下流老人」、その中間を「中流老人」に分類している。その結果、60代の34.5%が下流老人に該当することが分かった。
上流になればなるほど、金融資産の保有割合が高くなる。資産2000万~3000万円未満の高齢者の44.7%が投資信託を購入しているのに対し、下流老人は200万~500万円未満で12.2%、200万円未満になると1.4%しか所持していない。
「富裕層は何を買うのかといえば“お金”なんです。富裕層だからといって、毎日フランス料理を食べるわけではないし、高齢となれば買いたい物も少なくなる。買うとすれば貴金属を含めた金融商品で、上流老人にとってお金は消費の手段ではなく、お金を増やすための手段なのです」(三浦氏)
かたや下流老人は「宝くじ」を買う人が多いという統計がある。シニア調査の生活に関する質問で、「宝くじをよく買う」と答えた人は、上流の10.4%に対し、下流では24.5%にのぼる。ここには、資産を増やすための意識の差が現われているといえるのかもしれない。
その意識の差は、「貯蓄の目的」を聞いたアンケートの結果からも見えてくる。上流老人は85%以上が貯蓄の目的を「老後の備え」と回答しているが、200万~500万円の人は64%、200万円以下では49%。下流老人の回答では「急な時の備え」と答える人の割合が高く、その違いが浮き彫りとなった。
※週刊ポスト2016年4月15日号