【著者に訊け】林真理子さん/『ビューティーキャンプ』/幻冬舎/1620円
【あらすじ】
並河由希が転職したのはミス・ユニバース日本事務局。彼女のボス、エルザ・コーエンは美の伝道師として知られた人物だ。彼女の元に選ばれし12人のファイナリストが集まり、2週間のビューティーキャンプが始まる。エルザが叩き込む「美」のレッスンについてこられるのは誰か。グランプリは──最後の1ページまで目が離せない。
よりすぐりの美女が美を競う、ミス・ユニバース。その最終選考会に挑むファイナリストを集めた合宿「ビューティーキャンプ」を、ベストセラー『野心のすすめ』の著者でもある林さんが取材し小説にした。
「お会いしたのは20人ぐらい。何人か一緒だと、どうしても話がきれいごとになってしまうので、改めて一対一で会い、思いがけない本音を引き出すこともできました。キャンプの内容は相当ハードで、本当にアスリートみたいなんです」
ディレクターのエルザがいきなり候補者の服を脱がせ、下着の上下が揃っていないと叱責する場面が小説にあるが、これも実際に聞いた話だそうだ。エルザは、女性たちの体のラインや歩き方だけでなく意識も徹底的に鍛えて、生まれつきの美しさを余人の手が届かない芸術品のレベルにまで磨きあげていく。
「実際に会うと、『顔がきれいか、スタイルがいいか、どちらかにしてよ』と言いたくなるぐらい(笑い)、みなさん、ものすごいきれいです。そのうえ頭もいい人も多くて、もういやになっちゃう。80年代以降、フェミニズムの流れで『ミスコン、けしからん』とする風潮があり、主催者側も知性や社会貢献ということを言い始めて、スピーチではそういう面も重視されるんですよね」
一方で、完璧な美女たちに、いじめられた経験を持つ人が多い、というのは意外でもある。
「背が高くて首も長いから、小さいときは『キリン』とからかわれたりとか。高校生ぐらいになって男子の背が追い付いて騒がれ出すと、今度は女の子から『色目を使っていやね』と言われる。彼女たちぐらい美人でも、『私なんか』と言わないと日本では嫌われる。そんなふうにも思っているみたいです」
美は強いパワーで、かけがえのない武器だと考えるフランス人のエルザと、生まれ持った美しさの価値を表向き認めず、女性に謙虚さとかわいらしさを求める日本的な考え方の間には、ずれがある。世界を相手に闘える美女はだれなのか。だれが日本代表に選ばれるのか。短い合宿期間中に起きる美女たちのさまざまなドラマを、事務局に新しく加わった由希の視点で描いていく。
この小説を書いた縁で、林さんは、3月初めに開かれた今年のミス・ユニバースで、初めて審査員の立場も経験した。
「みんなすごく楽しそうで、音楽に乗って自然に体を揺らす感じ。男性を喜ばせるために水着になるんじゃない、自分の美しさを自分で楽しみ、人に見てもらうことも楽しい、という女性が増えてきている感じで、また少し印象が変わりましたね」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2016年4月21日号