NHKの国会論戦ニュースに、「必ず政府側答弁で締めないといけない」という“暗黙のルール”があると指摘したのはジャーナリストの大谷昭宏氏だった。3月24日、高市早苗・総務相の「電波停止」発言など安倍政権による報道機関への圧力に抗議する岸井成格氏(毎日新聞特別編集委員)、鳥越俊太郎氏ら5人のジャーナリストが外国特派員協会で緊急記者会見を開いた。その席上、NHKの報道姿勢が俎上にのせられたのだ。
岸井氏が「(NHKは)いつも最後に政府与党の言い分をくっつける」と批判したことを受け、大谷氏が“ルール”の存在を明かした。大谷氏が改めて語る。
「国会論戦では、持ち時間がなくなった野党議員が最後に厳しい政府批判をして質問を終わる場面がしばしばある。NHKではそうした場面は編集でカットし、政府の言い分で終わらせている。それが報道局や政治部の方針だと内部から聞いています。政府側が野党を論破したように印象操作するための内々のルールではないか」(NHK広報局はルールの存在を否定)
ちなみに大谷氏らの会見は新聞、民放各局が報じる中、NHKだけは取材にも現われなかったという。
「さもありなん」の内部ルールだが、これはほんの一部。他にも「秘密のルール」はある。まずは政治報道から。
NHKは首相の所信表明演説や重要法案の審議がある日は国会から生中継する。この国会中継には「全会派(全政党)が審議に出席する日を選ぶ」というルールがあり、事前の与野党の合意で日程が決まる。
国会が大荒れとなった昨年の安保法案審議の際には、安倍晋三首相出席の下で行なわれた7月15日の衆院安保特別委員会(採決直前の総括質疑)をNHKが放映しなかったことから、視聴者の抗議が殺到。NHKはその理由を〈全会派がそろうかどうか、直前まではっきりしなかった〉(毎日新聞、7月20日付)と弁解。つまり“野党が審議拒否するかもしれないから放送できなかった”と言い訳したのだ。
このルールを利用すると、与党側は都合の悪い審議を放映中止に追い込める。2013年5月8日の参院予算委員会でそれが起きた。
この日は、自民党の川口順子・環境委員長(当時)が国会の許可なく中国滞在を延長したことに全野党が反発、安倍首相を追及していた。NHKの生中継も予定されていた。
ところが、自民党は中継させないために与党議員の審議拒否という前代未聞の方法を取った。NHKは「全会派出席ではない」という理由で中継を中止。安倍首相が野党に追及される姿が視聴者の目に触れることはなかった。
※週刊ポスト2016年4月15日号