虐待により、幼い命が奪われる痛ましい事件が後を絶たない。この3月末にも、「親に虐待を受けている」と、神奈川県相模原市の児童相談所に保護を訴えていた中学2年の男子生徒(当時14才)が自殺を図り、重い障害を負った末に亡くなったと発表された。児童相談所は「緊急性はない」と判断して保護を見送っていたという。
2013年4月1日~2014年3月31日の間で、虐待により命を失った子供の数は69人に上る(厚生労働省調べ)。児童虐待とは、親または親に代わる養育者が児童(0才~18才未満)に加える行為で、注意すべきは、殴る・蹴るなどの身体的虐待だけでないことだ。
東京都児童相談センターの栗原博さんは言う。
「児童虐待は(1)身体的虐待(2)性的虐待(3)ネグレクト(保護の怠慢、養育の放棄、拒否)(4)心理的虐待の4種類に分けられます。特に最近は、子供を意図的に無視するなどして、心に深い傷を負わせる心理的虐待の割合が増えています。一見して“傷”が残らないため、周りに気づいてもらえないのが問題です」
虐待を受けている約4割が小学校入学前の乳幼児だ。子供自身が助けを求められないからこそ、周りの大人が行動を起こさねばならない。私たちがまずすべきことは地域の相談窓口への相談、児童相談所への通告、警察への通報だ。
「児童虐待の通告・通報は、法律で義務づけられています」と語るのは警視庁生活安全部少年育成課の担当者。通告・通報後は、児童相談所や警察が必ず、子供の安否を確認しに向かう。この時の児童相談所の権限は大きい。
「児童相談所は、親や養育者が拒否しても、家の中への立ち入り調査や、子供を親から引き離し一時保護できる権限があります」(栗原さん)
一時保護は、原則的に親の同意を得て行うが、危険な場合は強制的に引き離すことも可能だ。しかし、相模原市での一件では、男子中学生が、「保護してほしい」と訴えていたにもかかわらず、受け入れてもらえなかった。なぜ、このような事態が起きたのか。
19年間児童相談所で心理司を務め、現在は女性の生き方アドバイザーとして活躍する山脇由貴子さんは言う。
「おそらく児童相談所側は、指導によって“親子関係が改善された”と判断した可能性があります。この見極めは非常に難しいんです」
児童相談所は親子関係の再構築の役割を担っているので、無理に子供と親を引き離さないし、親の証言を重視する傾向にあるという。また、都内の一時保護所は常に定員オーバーという実態も。
しかし、今の日本では、児童相談所が頼れるセーフティーネットであることは間違いない。私たちが子供を救うには、通告・通報が最も有効な手段なのだ。
※女性セブン2016年4月21日号