またその質問かと、半ばあきれたように答える。「わからないよ」──。東京・有楽町の東京交通会館前の広場で営業する、平均15人待ちの靴磨き屋集団「千葉スペシャル」を率いる千葉尊(ちば・みこと/60)に、靴を見れば職業や地位がわかるものかと聞いたときのことだ。
──革靴が好きだったんですか?
「ぜんぜんないよ」
再び、撃沈……。
千葉は高校卒業後、溶接工、電気工、原子力発電所の作業員とさまざまな職を転々とし、19年前、41歳のときに有楽町のガード下で靴磨き屋を始めた。そのときから「これまで培った技術をすべて生かせる」と、靴磨き業界に革命を起こすつもりでいた。
材木店で身につけたカンナがけの技術は靴磨きに生かせるし、溶接工で養った鉄が乾いたときに縮む感覚は靴磨きクリームが縮む感覚に通じていた。また、原発で働いていたときに危険な成分に敏感になったお陰で、市販されているシューズケア商品の成分表示を見ればその「嘘」に気づいた。
「防水スプレーなんて革を壊してるだけ。すぐに自分で特製クリームを調合した。ただ、同じクリームを使っても、他の人は上手く使えないと思いますよ」
黒い革靴は3種類のクリームを使い分ける。柔らかいクリームから、徐々に硬いクリームへ。革の種類、状態に応じて、それぞれのクリーム量の「黄金比」を見つけ出す。磨く姿勢、指の角度も重要だ。3分もすれば、エナメルのような光沢が出始める。鏡面磨きと呼ばれる手法で、通常は2000~3000円するが、千葉スペシャルはわずか1000円。
「単価の安さは速さでカバーしている。平均10分。そっちの方が靴にもいい」
店名の由来も、湿っぽさを嫌う千葉らしい。「NHKスペシャルみたいでカッコいいでしょ」