3月20日、兵庫県加古川市で小学生から「たばこのポイ捨てはあかんのに」と注意された75才の無職男が逆上し、6才の小1男児の首を両手で絞めて逮捕されるという事件が起きた。近ごろ、キレる老人による事件が増えている。
一般に、人間は年齢を重ねるほど角が取れて丸くなり、見た目も性格も「仏さま」のように穏やかになるイメージがあるが、高齢者と女性のカウンセリングを専門とする「あしかりクリニック」の芦刈伊世子院長は「それは違います」と断じる。
「たしかに年を取って好々爺になる人もいるけど、圧倒的に多いのはどんどん頭が固くなって、融通が利かなくなるタイプです。私の臨床経験上、半分は変わらず、残りの多くは気難しくなります」
なぜ、キレる老人が増えているのか。その背景に「社会の変化」があると指摘するのは、老年精神医学に詳しい精神科医の和田秀樹さんだ。
「昔は儒教や仏教の影響で“年寄りを敬え”“年寄りの機嫌をとれ”と教えられました。孔子は76才、お釈迦さまは80才まで生きたから、儒教や仏教は超高齢化社会に適した教えだったんです。
ところが近年の日本社会はアメリカ型に傾き、“年功序列なんてダメだ”“効率が大事だ”という考え方が主流になった。とくに定年後の高齢者は、“働かない老人”“老害”とみなされて、世の中から邪魔にされやすくなり、お年寄りを敬う日本古来の伝統が廃れてしまいました」
さらに経済環境の悪化が日本の「高齢者軽視」に拍車をかけた。
「昔は国の財政に余裕があって、高齢者に手厚い政策ができたけど、今は超高齢化と国の財政悪化が重なり、若い世代を中心に“高齢者にお金を使うのはもったいない”という考え方が広まった。
こうした風潮の変化で誰からも尊敬されなくなった高齢者が“こんなはずじゃなかった”というストレスや欝憤を抱え、些細なことで暴走しやすくなりました」(和田さん)
平成に入ってから独居家庭の高齢者が増えたことも、背景の1つ。それまで同居する家族を相手にしたグチや小言でストレスを発散できたが、そうした場が少なくなった。
また、かつては、“世間様が見ている”という意識が、度を超した暴走のブレーキとなったが、核家族化の進行で地域社会が崩壊し、コミュニティーや他人とのつながりが希薄になった今は、そうした意識を持つ必要がなくなった。
こうした一連の社会の変化が何かのきっかけで一気に爆発し、暴走する高齢者を生む土壌となっている。
※女性セブン2016年4月21日号