ライフ

末期がんの僧侶 「生きることへの執着を捨てること」を説く

末期がんの僧侶・田中雅博さん

 僧侶・田中雅博さん(70才)は、栃木県益子町・西明寺の住職でありながら、何人ものがん患者を看取ってきた内科医だ。

 2014年10月にステージ4の膵臓がんが見つかり、抗がん剤などの治療を続けている。3月末に古希を迎え、孫も生まれたばかり。しかし膵臓がんは肝臓にも転移していて、医学統計から「あと数か月しか生きられない可能性が高い」と自覚している。

「あぁ、自分の番が来たんだなぁ…」

 自分が進行がんで治らないとわかったとき、田中さんは冷静に受け止めることができたという。それは彼が医師として、現代の医学ではどうにもならない現場を幾度となく経験してきたからだ。

 そんな田中さんが「いのちがなくなるとき」の想いをまとめた著書『いのちの苦しみは消える』(小学館)が話題になっている。末期がんの僧侶で、医師という立場から、“いのちの苦しみ”との向き合い方を説く田中さんが言う。

「人は誰でも100%死にますが“いつか”であって、すぐではありません。ですが、限られたいのちだとわかると、死にたくない、死ぬのが怖いという気持ちが出てきます。それが、“いのちの苦しみ”です。“スピリチュアル・ペイン”ともいいます。人間誰しも生きていられるなら生きていたいと思いますし、いのちがなくなることに苦しみは感じます。でも、人の死は思い通りにはなりません」(田中さん・以下「」内同)

 沈黙の臓器といわれる膵臓はがんの症状も出にくく、初期で発見することは難しい。ただし、進行すれば背痛などの激しい痛みを伴う。

 田中さんはこれまで手術や数度にわたる抗がん剤治療を受けている。ただし、民間療法はいっさい受けていない。

「民間療法は、本当に正しい治療かどうか、効果が科学的に検証されていません。受けていいのは、ちゃんと臨床試験をして医学的に効果が証明された治療だけです。ですが、今の日本はいのちのケアに対する意識が低いため、現代医学で助からないと言われた患者さんたちが、心の行き場を失って救いを求めています。結果、“がんに効く水”とか未承認の免疫療法といった民間療法に頼ってしまう人が多いのが問題です」(田中さん)

 いのちの苦しみをやわらげるひとつの方法として、田中さんは“生きることへの執着を捨てる”ことを説く。人には“思い通りにしたい”という欲求があり、思い通りにならないことに対して苦しみを感じる。だからこそ、“生きたい”“死にたくない”といった欲求をコントロールすれば、苦しみがなくなるという。

 海外の病院には、いのちの苦しみを癒す「スピリチュアルケアワーカー」「チャプレン」という職業が存在している。患者や家族に寄り添い、いのちの苦しみを癒すその存在は、残念ながら、日本にはまだ浸透していない。だからこそ、医師や看護師しかいない病院では“余命宣告”が難しい。

「医者は延命のための治療をして患者の体の痛みを緩和することはできますが、いのちの苦しみを緩和することはできません。いのちの苦しみは非科学的な領域で、科学的な領域の医学とは関係ないからです。“いのちの苦しみを緩和する”という考え方が、もっともっと重要視されるべきです」(田中さん)

※女性セブン2016年4月21日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

俳優の竹内涼真(左)の妹でタレントのたけうちほのか(右、どちらもHPより)
《竹内涼真の妹》たけうちほのか、バツイチ人気芸人との交際で激減していた「バラエティー出演」“彼氏トークNG”になった切実な理由
NEWSポストセブン
『岡田ゆい』名義で活動し脱税していた長嶋未久氏(Instagramより)
《あられもない姿で2億円荒稼ぎ》脱税で刑事告発された40歳女性コスプレイヤーは“過激配信のパイオニア” 大人向けグッズも使って連日配信
NEWSポストセブン
ご公務と日本赤十字社での仕事を両立されている愛子さま(2024年10月、東京・港区。撮影/JMPA)
愛子さまの新側近は外務省から出向した「国連とのパイプ役」 国連が皇室典範改正を勧告したタイミングで起用、不安解消のサポート役への期待
女性セブン
11月14日に弁護士を通じて勝田州彦・容疑者の最新の肉声を入手した
《公文教室の前で女児を物色した》岡山・兵庫連続女児刺殺犯「勝田州彦」が犯行当日の手口を詳細に告白【“獄中肉声”を独占入手】
週刊ポスト
チョン・ヘイン(左)と坂口健太郎(右)(写真/Getty Images)
【韓国スターの招聘に失敗】チョン・ヘインがTBS大作ドラマへの出演を辞退、企画自体が暗礁に乗り上げる危機 W主演内定の坂口健太郎も困惑
女性セブン
第2次石破内閣でデジタル兼内閣府政務官に就任した岸信千世政務官(時事通信フォト)
《入籍して激怒された》最強の世襲議員・岸信千世氏が「年上のバリキャリ美人妻」と極秘婚で地元後援会が「報告ない」と絶句
NEWSポストセブン
「●」について語った渡邊渚アナ
【大好評エッセイ連載第2回】元フジテレビ渡邊渚アナが明かす「恋も宇宙も一緒だな~と思ったりした出来事」
NEWSポストセブン
三笠宮妃百合子さま(時事通信フォト)
百合子さま逝去で“三笠宮家当主”をめぐる議論再燃か 喪主を務める彬子さまと母・信子さまと間には深い溝
女性セブン
氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
多くのドラマや映画で活躍する俳優の菅田将暉
菅田将暉の七光りやコネではない!「けんと」「新樹」弟2人が快進撃を見せる必然
NEWSポストセブン
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン