米大統領選の予備選挙がスタートした時は「泡沫候補」と思われていた不動産王ドナルド・トランプ氏だが、共和党候補者指名レースが終盤に差し掛かってなお、スポットライトを浴び続けている。
4月5日(日本時間)に行なわれたウィスコンシン州の予備選では敗北を喫し、勢いに若干の陰りが見えるものの、熱狂的な支持者が依然として多く、候補者指名を勝ち取る可能性は十分に残る。
差別主義的な発言を中心に、トランプ氏の言動は批判の集中砲火を浴びている。にもかかわらず、支持層は離れない。その人気ぶりはまるで、金権批判に晒され、ロッキード裁判で有罪判決を受けた後も、選挙で他を圧倒するトップ当選を続けた田中角栄・元首相のよう──専門家を取材すると、そんな構図が見えてきた。まず共通するのが、2人の巧みな弁舌だ。
かつて角栄は豪語した。
「オレの演説は年寄りにも、おっかさんにも、青年にも、誰にでもわかるようにできている」
角栄の持論をまとめた『日本列島改造論』には次のような言葉がある。
〈20代、30代の働きざかりは職住接近の高層アパートに、40代近くになれば、田園に家を持ち、年老いた親を引き取り、週末には家族連れで近くの山、川、海にドライブを楽しみ、あるいは、日曜農業に勤しむであろう〉
都会のサラリーマン向けのわかりやすいビジョンだ。一方、田舎のお年寄り相手には演説の冒頭でこんな冗談を飛ばしたという。
「このあたりは道路が来る、新幹線が来るから(土地の)値段も上がる。だからって銀行にお金を借りて安いうちに土地を買って一儲けなんてことを考えちゃいかんよ!」
政治評論家の小林吉弥氏が解説する。
「角栄はどんな聴衆に対しても、聞き手の身近な生活レベルに合わせた言葉で語りかけられる政治家でした」
トランプ氏も言葉選びに人一倍のこだわりがある。『トランプ革命』(双葉社刊)の著者・あえば直道氏(政治評論家)はこう説明する。
「トランプ氏は難しい言葉を使わずに本音を語るから、誰にでも確実に伝わる。そこが小難しい話と建前ばかりの他の大統領候補との違い。全米放送の人気テレビ番組出演を通じて、幅広い視聴者の心を掴む術を上達させてきたのです」
※週刊ポスト2016年4月22日号