11月のアメリカ大統領選挙に向け、全米で注目を一身に集めるドナルド・トランプ氏。型破りな言動が反発を買う一方で熱狂的な人気を集め、予備選序盤からの快進撃は「トランプ劇場」と称された。その背景を分析すると、日本の歴代総理で随一の人気を誇る田中角栄と通底する部分が数多く浮かび上がってきた。
「企業の社長になったら、できるだけ早く大きな仕事をやるべきだ。『熟慮断行』もヘチマもない」
これはビジネスマンとしての顔も持つ角栄の才覚を物語る言葉である。牛馬商だった父が事業に失敗し極貧のなか育った角栄は、高等小学校卒業後に上京。18歳で建築事務所を設立し、事業は時流に乗る。太平洋戦争の最中に25歳で田中土建工業を立ち上げると、完工高全国50位以内にまで成長させた。
一方のトランプ氏も1971年、25歳の時にニューヨークで不動産開発事業をゼロからスタートさせた。会社の名前も決まらないうちから、角栄のいうところの「大きな仕事」に次々と着手する。『トランプ革命』(双葉社刊)の著者・あえば直道氏(政治評論家)が指摘する。
「経営破綻した鉄道会社の保有地買収のため、管理会社に『土地を買いたい』と直接電話をかけた時のこと。社名を聞かれて適当に〈トランプ・オーガニゼーション〉と名乗り、有力企業と信じ込んだ相手方との交渉を成功させています」
その後、トランプ氏は会社を成長させて不動産王と呼ばれるまでになり、「実行力あるビジネスマン」という実績が、有権者を惹きつけている。
一方で、2人の生い立ちには大きな違いがある。角栄は田舎の極貧家庭から立身出世したが、トランプ氏はニューヨークの裕福な家庭で育ち、名門ペンシルベニア大を卒業している。ただし、トランプ氏もビジネスで成功を収めるまでの間に、少年期の角栄同様、数多の苦難を乗り越えている。
1991年に経営していたカジノ「トランプ・タージマハール」が破綻。個人保証していた負債9億ドルを抱え、どん底に突き落とされた。
「トランプ氏はこの時期、ホームレスを見て嘆いたそうです。『俺は彼より貧乏だ。彼にはカップに恵んでもらった小銭があるけれど、自分はマイナス9億ドルの負債を抱えている』と。そうした転落とカムバックを4回も繰り返し、最終的に大富豪となった。それが支持者には魅力として映っている」(前出・あえば氏)
※週刊ポスト2016年4月22日号