国際テロに備えた情報機関の重要性が叫ばれるなか、法務省の外局である公安調査庁への注目度も高まっている。なかでも北朝鮮情報やイスラム過激派によるテロ情報などを扱う調査第二部は、日本の国際情報収集の要ともいえる組織だ。
4月1日、その調査第二部の部長に、59歳になるノンキャリ(国家公務員II種)職員のA氏が就任したことが、庁内で話題を呼んでいる。公安調査庁幹部がいう。
「本庁の職員にとって、第二調査部長は現場のトップといえるポスト。そこにノンキャリが就くのは、10年に一度あるかないかという異例の大抜擢です。A氏は、中国担当のトップを長く務め、中国共産党の要人にも通じていることから、その情報収集・分析能力は『公安調査庁で最強』と称され、彼の情報のバリューで政府へのブリーフィングの頻度が跳ね上がったといわれるほど。庁内では、抜擢にも納得の声が上がっています」
だが、この人事は別の波紋を呼んだ。A氏にはこんな過去があったからだ。
〈朝鮮総連本部売却 公安庁職員が紹介 仲介者を元長官に〉
こんな大見出しが毎日新聞に掲載されたのは、今から9年前の2007年6月17日付朝刊。記事は、朝鮮総連の中央本部ビルが、元公安調査庁長官だった緒方重威氏の会社に仮装売買されていた問題(緒方氏は詐欺罪で有罪判決)に関連し、売買を仲介した元不動産会社の社長に緒方元長官を紹介したのは「公安調査庁の現職職員だったことが関係者の話で分かった」と報じたものだ。
仮装売買は朝鮮総連の資産差し押さえを逃れるためだと見られたため、この報道は「朝鮮総連と気脈を通じた現役職員の関与疑惑」として大きな話題を呼んだ。
実は、A氏がこの「現役職員」と名指しされた人物なのだ。民主党議員だった河村たかし氏(現名古屋市長)は、国会での質問主意書で、「今回、報道機関が『現職職員』として把握しているのは『A』(実際には実名)なるものである。A氏は公安調査庁の職員か」と質問している(政府は当時「今後の調査の支障となるおそれがあるので、お答えを差し控えたい」と回答)。
それだけに、A氏の就任には、「対北朝鮮部門のトップにふさわしいのか」と問題視する声が一部から上がったのだ。
もっとも、この報道に関しては「事実に反する」として公安調査庁が毎日新聞社に謝罪と訂正を求める抗議文を送付。毎日は「取材に基づいており、内容に誤りはないと考える」と回答し、その後うやむやに終わってしまっている。
「A氏が総連とパイプがあってもおかしくはないが、彼は当時からやり手で知られており、その分やっかみも買っていたから、“誰かに足を引っ張られたんじゃないか”と噂されていた。すぐさま組織として抗議し、その後彼が出世したことを見ても、庁内ではシロだったという認識です」(同前)
公安調査庁に改めて質すと「職員が関与したという事実はない」という回答だった。とはいえ、この問題が再び話題になっている背景には、異例の抜擢によるハレーションがあるのは間違いない。また足を引っ張られなければいいのだが。
※週刊ポスト2016年4月22日号