「非公認と判断した党の決定過程に『問題』があって到底受け入れられない。選挙を通じて有権者の判断を仰ぐしかない」
そう憤るのは韓国与党セヌリ党の前院内代表(日本の国対委員長に相当)・劉承※(ユスンミン、ミンは日ヘンに文)議員の補佐官だ。
韓国では4月13日に総選挙(定数300)が実施されるが、ここで「問題」としているのは、朴槿恵(パククネ)・大統領に近い党公認管理委員会が、劉氏に公認を出さなかったことだ。公認候補の登録期限である3月23日夜になっても公認とも非公認とも発表せず、事実上の「追い出し」が図られたのだ。
同日夜、劉氏は自ら離党を表明。「権力が私を捨てても、私は国民と共に行く」と怒りを露わにした。
2005年に初当選した劉氏は、大統領就任前(セヌリ党代表時代)の朴氏の秘書室長を務めた腹心中の腹心だった。なぜ今回の選挙では切り捨てられたのか。
その理由は昨年7月に遡る。朴政権が成立を目指した法案を巡って、院内代表だった劉氏は野党との妥協案に合意した。その国会対応に朴氏が激怒。「背信の政治だ」と述べて更迭し、法案は廃案になった経緯がある。
朴氏は今回、選挙を前に「(公認候補には)“本物の人”を選んでほしい」と暗に劉氏ら非朴派を外すよう党に求めていた。それを受け、劉氏を含む非朴派が相次いで公認を外れたのだ。
日本の選挙では、2005年に当時の小泉純一郎・首相が郵政民営化に反対した議員を公認せず次々と刺客候補を擁立したことがあるが、朴氏の場合、政策的な対立イシューはない。判断基準は「気に入るか、気に食わないか」だ。露骨な強権発動に「悪辣(あくらつ)な私的公認で非民主的な政治粛清」(セヌリ党出身の国会議長・鄭義和<チョンウイファ>氏)と反発が強まっている。
劉氏と同じく公認を外れたのが、2013年の政権発足当初に保健福祉相を務めた元側近の陳永(チンヨン)議員だ。
陳氏は2013年9月、「高齢者に一律20万ウォン(約1万8300円)を支給する」という朴氏の大統領選の目玉公約を遂行しようとしていた。しかし、財源の制約から減額修正を求める青瓦台(大統領府)と対立し、閣僚を辞任した。そのことが朴氏の不興を買い、今回の選挙の非公認に繋がったとされる。
「朴氏の公約を忠実に実行しようとしたことは評価されず、騒動を引き起こしたことがマイナス評価になった」(青瓦台関係者)といわれており、陳氏が納得できないのは当然の成り行きで、最大野党の「共に民主党」から出馬すると表明した(3月20日)。
現地メディアなどによると、公認を得られなかった離党組と刺客候補が対決する図式の選挙区は30以上も生じている。
※週刊ポスト2016年4月22日号