2016年の世界の株式市場は原油価格に翻弄されている。それと密接に関係するオイルマネーの動向についてパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表取締役の宮島秀直氏が解説する。
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世界の金融市場を翻弄しているものの一つに、原油価格がある。1月下旬、1バレル=20ドル台まで急落した後、一進一退を続けているが、OPEC(石油輸出国機構)を始めとする主要産油国に減産する気配がないことから、予断を許さない状況が続いている。
よく、原油価格低下は、先進国の中では日本に最も恩恵がある、という論調が見られるが、外国人投資家はそうは捉えていない。逆に、現状の原油安で最も警戒すべき国は日本だと見ている。確かに原油依存度が高く、一見、原油安のメリットは高そうだ。
実際、国内の化学や素材セクターの企業業績も原油安で伸びている。だが、外国人投資家が注目しているのは、原油の輸入先である。日本はサウジアラビアからの輸入が突出しているからだ。
すでに、サウジアラビアとイランは国交断絶の状態にある。もし、交戦状態に突入した場合、原油の供給が急減する可能性がある。外国人投資家はその可能性を読み取っている。地政学的なリスクが最も高いのは日本、というわけだ。
原油安は、当初、中国を始めとした世界経済成長の急減速による需要急減や、米国のシェールガス対OPECの増産合戦が、おもな要因となっていた。それが、欧米のイランに対する経済制裁の解除により、サウジアラビアVSイランの増産合戦に移行している。
しかも、そこには宗教的および政治的対立が絡み、増産合戦による原油安は、この対立の深刻化を示しているとみることができる。原油安が進行すると、外国人投資家、おもに指数先物売買を得意とするCTA(商品投資顧問業者)勢が日本株に売りを浴びせるのは、こうした背景がある。
原油安にまつわる報道の誤りはもう一つある。アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなど、巨額の政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)を運用する産油国が、原油安によって国の財政収支が悪化したため、保有株式の大量売却に動いている、というものだ。現実には、売却は出ているものの、それはわずかで本格的な売りには至っていない。
その証拠として、中東の外国人投資家が投資対象とする「シャリアS&P500指数」、「シャリア日本株指数」が、S&P500や日経225といったベンチマークとほぼ同じ動きをしていることが挙げられる。もし、中東の政府系ファンドが大量に売りを出していれば、日米のシャリフ指数はベンチマークを大幅に下回っているはずだ。
ただし、まだ本格的な売りを出していないということは、売り圧力が温存されていることを意味する。推計では、サウジアラビアの政府系ファンドは日本株を2兆4000億円、UAEは1兆8000億円、それぞれ保有している。原油価格が一段安となれば、この売りが出てくる可能性がある。
一つの目安として、1バレル=20ドル台が継続すると可能性が高まるとみられる。そのときは、CTAを始めとしたヘッジファンドの売りに、政府系ファンドの売却が重なることになる。
※マネーポスト2016年春号