アメリカ大統領選挙に向け、全米で注目を一身に集めるドナルド・トランプ氏。型破りな言動が反発を買う一方で熱狂的な人気を集め、その様は単なる「泡沫候補」とはいえないほどのフィーバーとなった。その人気の背景を分析すると、日本の歴代総理で随一の人気を誇る田中角栄との共通点浮かび上がってきた。
「選挙の神様」といわれた角栄の真髄は、「戸別訪問3万軒、 説法5万回」というドブ板選挙にあった。有権者と直接触れ合い、常に相手の気持ちを考える。
だからサービス精神を忘れない。ロッキード事件発覚後に、その日していたネクタイについて演説でこんな冗談を口にしている。
「このネクタイ……これは誰かからきっともらったんだ。ロッキードからじゃありませんよ!」
飾らないサービス精神は、トランプ氏も持ち合わせている。昨年8月、演説会場で支持者をステージに上げ、自身の髪の毛を引っ張るよう促した。
「これは私の毛だ。誓うよ」
これは、前髪で“ひさし”を形づくる独特のリーゼントに降って湧いた「カツラ疑惑」を逆手に取ったパフォーマンスで、聴衆からは大ウケだった。
トランプ氏の言動にタブーがないことは「イスラム教徒を入国禁止にせよ」といった発言によって強く印象づけられている。許されない差別発言だが、誰もいわないことを口にしたことで、イスラム過激派のテロに怯えるアメリカ国民の不安な心理をくすぐったことは否めない。発言の内容というよりも、誰も触れたがらないことに踏み込む姿勢が人気に繋がっているといえそうだ。
角栄も誰も踏み込めなかった領域に挑んだ。最たる例が「自主エネルギー確保」への挑戦である。
首相就任後、角栄は米国が供給体制を支配していた石油と濃縮ウランの確保に動いた。1973年、同盟国である米国への根回しなしにフランスと交渉し、年間1000万トンの濃縮ウラン輸入の約束を取り付けた。
「日米開戦は米国に資源調達を断たれたことが原因」という問題意識からだが、米国との対立を恐れて、日本では誰もやろうとしなかったことだった。
『トランプ革命』(双葉社刊)の著者・あえば直道氏(政治評論家)が指摘する。
「反移民政策を掲げるトランプ氏を支持しているのは、不法移民などに仕事を奪われることを脅威に感じている低所得者層が中心です」
角栄の庶民人気を政治評論家の小林吉弥氏が解説する。
「新人時代、地元選挙区の中心部は保守系の大物がすでに地盤を固めていたため、戸数が少ない“辺境の地”にしか票集めの余地がなかった。そこに住む庶民の支持を得るところから始め、当時、社会党を支持していた層からも得票を重ねたことから庶民派と呼ばれた」
※週刊ポスト2016年4月22日号