「(娘が)どうしても歌舞伎役者にしたいって言うのでね。ならせるなら、ゆくゆくは『梅幸』を継がせるかね」。この発言に歌舞伎界が激震した。
4月5日、都内で行われた「團菊祭五月大歌舞伎」取材会。尾上菊五郎(73才)が長女・寺島しのぶ(43才)の長男、つまり孫の眞秀(まほろ)くん(3才)に、音羽屋の大名跡である梅幸を継がせると明言した。眞秀くんは寺島とフランス人の夫の間に生まれた子供で、実現すれば伝統を重んじる歌舞伎界で、公には初めて“ハーフ役者”が誕生し、しかも歴史ある大名跡を名乗ることになる。
音羽屋は市川團十郎家の成田屋に次いで長い歴史を誇る歌舞伎界の超名門で、今の菊五郎は7代目に当たる。「梅幸」はその音羽屋のなかでも、菊五郎と並ぶか、それ以上の格式高い名跡だ。
「梅幸はもともと初代菊五郎の俳名(※)で、初代から3代目までは“菊五郎の別名”でした。女形の名手・4代目菊五郎が長く梅幸を名乗っていたことから、その頃から“女形の大名跡”とされるようになった。歌舞伎界全体で見ても、團十郎、歌右衛門に次ぐ大きな名前だといえます」(演劇評論家の中村哲郎氏)
(※俳句を作るときの「雅号」のこと。それが転じて、江戸中期以降、歌舞伎役者の舞台上の芸名である「名跡」とは別に、公私で自由に使用した名前を指す)
つまり、音羽屋では本家の長男が「丑之助→菊之助→菊五郎」そして「梅幸」と名前を受け継いでいくのが伝統的な形とされ、演劇関係者の間では、「今の菊五郎が息子の菊之助に名を譲るときに8代目梅幸を名乗るのでは」との見方がもっぱらだった。
「それなのにこのような大名跡を、本流の菊之助の長男・和史くんや他の役者たちを差し置いて、一足飛びに眞秀くんに『継がせる』というのは異例中の異例のことです。眞秀くんはしのぶさんの長男、つまり女系の子。歌舞伎の名前は代々男系が継ぐもので、歌舞伎500年の歴史で女系の子供が名前を継いだこともありますが、それはあくまでも他に継ぐ人がいなかった時の窮余の策でした」(歌舞伎関係者)