焼肉店は日本全国に存在するが、「出てきてビックリ!」という品にはなかなかお目にかかれない。週に5日は肉を食べるという肉食グルメブロガー・フォーリンデブはっしーさんが“今食べるべきデブリシャスな肉”として挙げるのが、焼肉店が手がける「前肉(ぜんにく)」だ。
「前菜ならぬ前肉が肉業界での旬な動きです。メインの肉を焼く前にスターターとしてさらっと食べる、いわば『サイド肉』に各店舗が力を入れています」
焼肉芝浦 赤坂別邸の「炙りロース」は大判のロース肉をさっと炙った、とろける舌触りが特徴。それにウニとイクラをのせ、同店はコース(萬福コース)の始めにも提供している。
「サイド肉の特徴はレアであること。保健所の許可がないと生肉が出せないこのご時世、法律的には問題ない、生肉に近く調理したレアな肉が好まれる傾向にある。ウニと肉を合わせる流行もあるのですが、ウニもレアな肉とのほうが相性もいい。複数のトレンドが融合して、個性ある一皿が生まれています。僕はこれを、温かいご飯の上に乗せて食べています。合わないはずがありません?」
焼肉店のローストビーフにもはっしーさんは注目する。
「ホテルのローストビーフのように筋張った食感はなく、焼肉店のテクニックでしっとりと仕上げたレアな食感が持ち味です。A5ランクの肉を筆頭に長らく霜降り絶対主義が続いていましたが、近年は赤身肉が台頭し、そこから熟成肉、そして塊肉へトレンドが移りました。肉を塊で焼くのは、ローストビーフの製法なんです」
赤身・熟成・塊というトレンド「3条件」を揃えたのが格之進Rtの「塊焼き」。厳選した黒毛和牛を処理後、枝肉で4週間ほど吊るして熟成し、さらに2週間ほど真空状態で追熟することで柔らかく旨味の強い塊肉となる。
「旨味と香りが引き出された美しい赤身肉は塊焼きにすると旨味が凝縮。噛むたびに肉汁がジュワ~と口の中に広がる超絶デブリシャスな逸品です」
赤身レア系という傾向は近年のトレンド。肉を知るプロたちは昔ながらのメニューに原点回帰しつつ、さらなる進化を遂げている。
「にわかに高まった赤身レア肉への注目と生肉規制がリンクして、各店独自のローストビーフ製法が生まれています」
店のこだわりが詰まった熟成の「前肉」は新しい「焼肉のかたち」を提案してくれる。
【プロフィール】ふぉーりんでぶ・はっしー/神奈川県出身。グルメエンターテイナー。グルメブログ「イエス!フォーリンデブ★」が月間200万アクセスを突破する人気ぶり。数々のグルメ大使の肩書きを持つが、特に肉に造詣が深い。著書に『東京 肉らしいほどうまい店』(KADOKAWA刊)。『東京カレンダー』が選んだ肉の四天王にも名を連ねる。
※週刊ポスト2016年4月22日号