アメリカ大統領選挙候補の指名レースで注目を一身に集めるドナルド・トランプ氏。型破りな言動が反発を買う一方で熱狂的な人気を集め、予備選序盤からの快進撃は「トランプ劇場」と称された。その背景を分析すると、日本の歴代総理で随一の人気を誇る田中角栄との共通点が浮かび上がってきた。
角栄が首相に就任したのは1972年。7年8か月続いた鉄道官僚出身の佐藤栄作首相の後継を決める自民党総裁選は、「角福戦争」と呼ばれた。大蔵省出身のエリートである福田赳夫優位の下馬評を角栄がひっくり返す劇的な結末に、国民は喝采を送った。長く続いた官僚政治の閉塞感が庶民宰相誕生の背景にあったのだ。
トランプ人気にも似た空気が読み取れる。候補者選びが始まった当初、本命と見られていたのは父と兄が大統領経験者のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事。同氏に「退屈」「低エネルギー」のレッテルを貼って支持を広げた。そこにはやはり名門エリート一家への不満、物足りなさがあった。
「政治は数、数は力、力はカネ」の“名言”は、角栄流政治の象徴といわれる。その資金力が首相にのぼりつめるには欠かせなかった。
米国の大統領選ではテレビCMに巨額を投じる必要があるため通常は各種団体からの寄付が不可欠だが、トランプ氏の場合、総資産45億ドルといわれる自前の財力がある。『トランプ革命』(双葉社刊)の著者・あえば直道氏(政治評論家)が指摘する。
「お金があるから寄付を求める必要がなく、関係各所を気にしてペコペコする必要もなくなる。有権者はそれを『ウソがない』と評価している」
こうした共通点の他にも2人には共通点がある。角栄の娘・眞紀子氏は「晩年、病に倒れた角栄が座る車イスを押して、有権者の前で父に代わって演説した」(政治評論家の小林吉弥氏)。トランプの娘・イヴァンカ氏も父を支える。父と同じペンシルベニア大卒の元モデルで、トランプ氏の会社の役員も務める。
選挙活動にも同行。共和党唯一の女性候補だったフィオリーナ氏に対しトランプ氏が「あの顔を見ろ、誰が投票するだろうか」と女性蔑視の暴言を吐いて批判されそうになると、「父は性差別主義者だと思わない。そんな考えなら私が彼の会社で要職に就くことはなかった」と即座にフォローする。その機転から有権者の人気も高い。
“じゃじゃ馬娘”の存在は、どちらの父も心強く思ったことだろう。
※週刊ポスト2016年4月22日号