米大統領選の共和党候補者指名レースでトップを走る「暴言王」ドナルド・トランプ氏(69)。その対日政策に関する発言には「日本憎し」の心情が迸っている。そして、彼の発言に民衆も熱狂する。その根源には何があるのか。在米ジャーナリストの高濱賛氏がレポートする。
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「日本は為替操作をしている。これに対抗するには、アメリカは日本製品に輸入関税をかける以外にない」
などと口を開けば、“反日愛国”的な言説を繰り返すトランプ氏。昨夏、アイオワ州ドゥビュークで行った演説では次のように言い放ち、集まった支持者や野次馬を大いに笑わせた。
「日本人や中国人との交渉事はものすごく大変だ。でも私は彼らの英語力の無さをいつもあざ笑ってやるんだ……彼らは時候の挨拶すらせずに席に着き、『ワタシ アナタ ト ショウバイ シタイ』とブロークン・イングリッシュで切り出すんだ」
滞米経験の長い日本人元商社マンは、日本人の英語を茶化すトランプ氏やそれに拍手喝采する米一般大衆についてこう嘆息する。
「多民族国家・アメリカでは、人種差別以上に“言語差別”が激しい。ネイティブ発音のアメリカ英語が話せない人をバカにする傾向は、役所の窓口やスーパーのレジなど日常生活のあらゆる場面で見られる。日本人や中国人は知的レベルがどんなに高くても、英語の発音が下手なだけで嘲笑の対象とされてしまうのがアメリカ社会の現実だ」
ハワイ出身の宗教社会学者、ディクソン・ヤギ神学博士はその背景をこう分析する。
「トランプに心情的に共鳴しているのは60代後半からその上の世代の白人たちで、その彼らが目指すのは、“古き良き50年代”への回帰。それはつまり、移民法改正前、公民権法成立前のアメリカのことだ。アジア系やヒスパニック系の大量移民もなく、黒人の人権も徹底的に無視されていた白人優越社会を彼らは懐かしんでいる。
同時に、70年前の戦争で敵国だった日本や日本人に対しては、誤解と偏見に満ちた嫌悪、恐怖感情を当時のまま持ち続けてもいる」
トランプ氏の“反日言説”は、アメリカ社会の病巣を浮き彫りにしつつある
※SAPIO2016年5月号