新入生が夢を膨らませて大学の門をくぐる春。今年の大学受験は、フタを開けるとやっぱりあの大学がダントツの人気を見せつけることになった。志願者数日本一を達成したのは、近畿大学。一昨年、昨年と続けて3年連続してトップの座を手に入れた。もちろん「志願者数が多い」ことがそのまま大学の価値に直結するとは言えない。が、「人気のバロメーター」であることはたしか。関係者の中には「志願者数の増加はいずれ偏差値の向上に結びついていく」という見方もある。
数年前まで、全国的にあまり知られていなかったローカルな大学だった近大。それがなぜ、一気に「日本一」の人気を誇る大学にまで登りつめたのか。その原動力とは何か。少子化時代の対応を真っ先に迫られている教育界だが、ビジネス界も深刻化する人口減の課題に対処しなければならないのは同じだ。近大の躍進の中にビジネスのヒントも見つかるのか? 『[増補版]なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか 』(光文社 知恵の森文庫)の執筆者・山下柚実氏に聞いた。
──率直に、今年の入試で近大が志願者数が3年間連続日本一になった理由は何だと思われますか?
「近大といえばすぐ『近大マグロ』というワードが浮かぶほど、今やこの話題は浸透していますよね。近大がクロマグロの養殖技術を確立し、さらにその味を楽しめるレストランを作って行列ができて話題が沸騰しました。普通ならばそのまま『近大マグロ』の話題に寄りかかって安心しそうなもの。ですが近大は安住していない大学。どんどん次のチャレンジを繰り出してきます。
例えば、『近大マグロの中骨のだしを使ったカップ麺』『うなぎ味のナマズ』といった新たな商品や、つんく♂プロデュースのドハデな入学式、アマゾンと組んで教科書販売などなど目まぐるしく新たな情報を発信する。だからこそ、人々の関心を引き続けることができ、受験生にとってもイキイキとした元気な大学、という印象を与え続けているのでしょう。志願者数日本一が3年続いたのも、そうした切れ目のないユニークな取り組みと情報発信の成果だろうと思います」
──少子化の時代なのに、昨年と比べて近大は今年さらに6000人以上も志願者が増えたということですが、どんな背景が?
「今年の入試で近大の志願者数増に大きく寄与したのは、国際学部の新設ではないかと思います。500人という定員に対して17倍の志願者数があったという。実はこれまで近大は、理工系は強いけれど文系、国際化教育の面は弱い、と言われてきたんです。しかし国際学部を新設することで、その弱点に対して腰を据えて取り組み始めた。
それも、民間企業ベルリッツと新学部の構想段階から連携し、例えば新入生は1年後期から全員が留学するという。単純に考えて500人の留学先を見つけることだって大変なことですよね。民間企業のネットワークを活用していく新規性も若者たちの関心を惹きつけ、17倍という倍率につながったのではないでしょうか」