対戦相手も魅了する清宮幸太郎選手
春のセンバツが閉幕しても、高校野球がメディアを騒がせている。東京都春季大会(4月1日開幕)で早稲田実業の清宮幸太郎(16)が快音を響かせたからだ。怪童は昨夏からどれぐらい成長したのか──。
全国の地区予選を詳報するなど、どこよりも高校野球情報を網羅するインターネットサイト『高校野球ドットコム』の副編集長で、「高校野球博士」の異名を取る河嶋宗一氏が、清宮の「現在点」をレポートする。
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時折、彼がまだ16歳だと忘れてしまうことがある。あまりに落ち着き払っているからだ。
昨年の夏の甲子園、その直後に開催されたU-18W杯では、オコエ瑠偉(関東第一から東北楽天)や、小笠原慎之介(東海大相模から中日)といった2学年先輩に対しても、練習中には遠慮することなく意見を出していた。
先輩の前ではガチガチに緊張し直立不動で、「オザッス(おはようございます)」や「シシャッス(失礼します)」と言うのが精一杯の1年生球児が多い中、清宮は異質の存在と言える。
こんな逸話がある。昨年の秋季大会で早実が敗れた二松学舎大付には、プロが注目するMAX148キロ左腕の大江竜聖投手がいる。普段、大江は振りかぶらずに投げるノーワインドアップ投手だが、清宮と対峙する時だけ、ワインドアップになる。その理由を大江に聞くと、「少しでもボールの見え方を変えて清宮を揺さぶりたかったんです」と明かした。
大江はこの試合で第2打席、第3打席と清宮にヒットを許したが、第4打席に三振に切って取った際には「シャッー!」と、大きな雄叫びをあげた。
大江は清宮より1学年上だが、明らかに清宮を意識していた。試合後、敗れた清宮は大江に近づき、「頑張ってください」と握手を求めた。その姿を見た二松学舎大付の関係者は「清宮君は大人だな。早実は敵だが彼は応援したくなる」と漏らした。
対戦相手の関係者さえも魅了する清宮は、やはりスターなのだ。そのスターがもっとも輝く場所が甲子園である。
この夏、もう一度その舞台に返り咲いてほしいが、早実が属する西東京地区には日大三や東海大菅生など強豪校がひしめく。
甲子園に出るためには、チームの総合力が問われる。清宮には4番打者としてチームを勝利に導く一打が求められるが、きっとその期待に応えてくれるはずだ。
●かわしま・そういち/「高校野球ドットコム」副編集長。年間300試合以上の高校野球を観戦し、確かな目で選手を分析する。球児から「高校野球博士」や「スカウト部長」とも呼ばれている。高校野球にまつわるあらゆる情報を集約している高校野球ドットコムにて、強豪校の練習や注目の球児についてコラムを執筆中。
※週刊ポスト2016年4月22日号