4月クールで、話題の連続ドラマが続々と始まっている。そのなかで最近目立つのは、朝ドラ出演者の起用だ。しかも、朝ドラから“直行”で出演する俳優が増えているのだ。中には、朝ドラ出演中に民放連ドラに出演する人もいる。起用する側の狙いとは? テレビ解説者の木村隆志さんが指摘する。
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主演ドラマ『あさが来た』(NHK)が4月2日に終了してから、わずか11日。波瑠さんが翌々週の4月13日に『世界一難しい恋』(日本テレビ系)のヒロインとして連ドラに帰ってきました。
『あさが来た』のクランクアップは3月5日。「無事に今日という日を迎えられて本当にうれしい」と涙を流していた波瑠さんは、3月14日のブログで、すでに『世界一難しい恋』の撮影に入っていることを明かしています。もともと「日本一ハード」と言われ、1年以上どっぷり浸かった役からの切り替えが難しい朝ドラヒロインは、終了後に一定の休養期間を空けるのが基本。それだけに、終了直後の連ドラ出演をオファーするほうも、受けるほうも勇気が必要なのは間違いありません。
しかし、この“朝ドラ終了直後に、民放の連ドラ出演”という流れは、波瑠さんだけではなかったのです。この3年間を振り返ってみても、『ごちそうさん』(NHK)の杏さんは『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)で主演を務め、『まれ』(NHK)の土屋太鳳さんも『下町ロケット』(TBS系)で主人公の娘という重要な役で出演しました。
また、ヒロインに次ぐ“準ヒロイン”も、『あまちゃん』(NHK)の放送中に有村架純さんが『スターマン』(フジテレビ系)、『まれ』の放送中に門脇麦さんが『探偵の探偵』(フジテレビ系)に出演しました。ヒロインほど撮影スケジュールが詰まっていないことから準ヒロインは、朝ドラが放送されている期間での連ドラ出演が可能であり、民放各局の制作スタッフはキャストが発表された段階から、その後の人気を見越してオファーを進めています。
週6日、1話につき4回放送される朝ドラのヒロインや準ヒロインは、視聴者にとって「毎日顔を見る家族」のような存在。中高年層にとっては娘や孫のようであり、10~30代にとっては姉妹や親戚のような存在だけに、放送が終了すると寂しさを感じ、同時に「次はどんな作品に出演するのかな?」と気になるものです。
そのような思いこそが、民放各局が求める視聴率に最もつながりやすい視聴動機。ブランクを置かず朝ドラ終了直後に起用することで、「“朝ドラヒロインロス”に陥る視聴者の自然な欲求を視聴率につなげよう」と考えているのです。
一方、所属事務所サイドも、朝ドラ出演を大きなステップとしてとらえ、「終了直後が最大のチャンス」とばかりに民放各局の制作サイドにプッシュしようと考えます。しかしその反面、「せっかく朝ドラで成功したのに、次の作品で台なしにすることだけは避けたい」という不安があるのも事実。特に民放の連ドラは、低視聴率を主演女優の責任にするような論調があるだけに、作品選びに慎重な姿勢を見せる芸能事務所も少なくありません。
ところが『あまちゃん』の能年玲奈さん、『花子とアン』(NHK)の吉高由里子さんのように、その後の連ドラ出演がないと、朝ドラで得た勢いや視聴者の好印象を十分に生かせません。つまり、すぐに連ドラ出演しなければ、せっかく得た視聴者の熱が冷めてしまう可能性が高く、「半年ごとに新たな朝ドラヒロインが誕生する」など競争の熾烈さもあるため、連続出演が増えているのです。
近年、朝ドラと民放の連ドラを連続出演したなかで、私が最も驚かされたのは門脇麦さん。彼女は準ヒロインの一人として出演した朝ドラ『まれ』の後半部分が放送されているとき、『探偵の探偵』にも出演して物語全編に渡る黒幕を演じました。朝ドラに続く作品で、いきなり長編ミステリーの出来を左右する黒幕を演じるのは異例中の異例。制作サイドの思い切った抜擢も、それに応えた門脇さんの熱演も見事であり、演技派という印象を決定づけました。
朝ドラ出演時、すでに出演作品がほぼ主演だった井上真央さんや堀北真希さんのような女優でない限り、「朝ドラヒロインは終了直後に、準ヒロインは放送後半に、民放連ドラへ出演する」という流れは今後も続くでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』などに出演。さらに、タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。