【著者に訊け】朝倉かすみさん/『たそがれどきに見つけたもの』/講談社/1620円
【本の内容】
もう若くもなく、かといって老成もしていなくて惑うことも多々ある──人生80年を四季に分けた時の「秋」。やがて冬の影も見え隠れする40~50代の男女の、決して穏やかばかりではない日常を描いた6編が収録されている。「末成り」は同僚の事務員から「ゼンコ姐さん」と呼ばれる(恋多き)女性の悲しみを、「王子と温泉」はローカルタレントのファンの微妙な心理を描いている。
小柄な朝倉さんに、きれいな銀髪がよく似合っている。
「2週間に1度、髪を染めてたのを、去年の3月にやめたんです。なかなか美容院に行けなくて、白髪が目立ってきたので自分で板前さんぐらいみじかーく切っちゃった。染めた茶色と、もとの黒髪と白髪がまじって三毛猫みたいになってたのが、今は白と黒だけに。ワックスはシルバーのを使ってます」
もともと、「おばあさんになりたい欲」があったという。
「デビューも遅かった(2003年、43才のとき)ですし、どうせなら老女作家として認知されたいなあ、って希望があったんですけど、なかなか白くならなくて。髪が白くなっただけで若者が親切にしてくれるの。席譲ってくれるし、なにか聞いても親切に答えてくれる。世の中、捨てたもんじゃないという気になりますよ。時々、自分より年上の人に席を譲られそうになるけど(笑い)」
新しい短編集では、人生の「秋」を迎えつつある、おもに50代男女の日常を描いた。
「私自身、50代ということもあって、去年ぐらいから、主人公がうんと年をとった人か、子供か、しか書きたくなくなっちゃった。子供から大人になるときと違って、老いは時間もかかるし、自分自身の変化をとらえやすいし、じっくり向き合えるのが面白いんですよね」
高校時代の友人と再会して感じる微妙な違和(「たそがれどきに見つけたもの」)や、パート先のコンビニの若い男性に感じる心の揺れ(「ホール・ニュー・ワールド」)。10代、20代のころの感情が不意に呼び戻されてあわててしまう。
「いつまでたっても年相応の中身にならない感じもあって。今まで通ってきた道にあったことは、つらいことも含めてみんな柔らかい思い出になっているけど、時々、何かの拍子にぎゅーっとこみ上げてくる。その距離感は不思議ですよね」
「その日、その夜」では、「作家の孤独死」を取り上げている。
「誰か知り合いが亡くなると、『あの人はこうだった、ああだった』ってみんな言うけど、あんまり、当たってないんじゃないかといつも思うのね。その人がどんな気持ちで亡くなっていったかなんてわからない。私は今、小説を書いていて、作家がどういう生活か、というのはある程度、わかるので、人からどんなにさみしそうに、不幸そうに見えても、結構そうでもない、というところを書いてみたかった」
人生の秋の次には冬がくる。
「寒いのは基本的につらいけど、今度はあったかいものがありがたくなるから(笑い)」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2016年4月28日号