いよいよ“究極のエコカー”を巡るライバル対決の火蓋が切られた──。水素を使って走る燃料電池車(FCV)は、トヨタ自動車が2014年12月に量産車の「MIRAI」を販売して話題を独占してきたが、ここにきてホンダがFCV市販モデル「クラリティ フューエルセル」のリース販売を開始。来年中には一般販売も始める予定だという。
そこで気になるのが、クラリティの性能や乗り心地はトヨタ車とどこが違うのかという点だ。4月19日、埼玉県内で約1時間に及ぶ試乗体験をした自動車ジャーナリストの井元康一郎氏に比較してもらった(以下「」内は井元氏のコメント)。
まず、クルマのデザインや居住性について。クラリティはホンダのM・M思想(人のためのスペースは最大・メカニズムは最小)に基づき、心臓部である燃料電池本体や動力源となるモーターの小型化に成功。MIRAIが4人乗りなのに対し、5人乗りの広い室内空間を確保したことが大きな特徴のひとつ。
「MIRAIより車内空間にゆとりがあり実用性は高い一方、内装はMIRAIのほうが上質に感じました。クルマのデザインはガソリン車のセダンと区別し、FCVならではの新しさを出そうと両車とも独創的なイメージ。ただ、少々、表現過多の印象も受けました。
特にホンダはトヨタのレクサスのように高級車ブランドが育っているわけではないので、クラリティをホンダ車のフラッグシップモデルと位置づけ、もっと上級感が漂う佇まいにしてもよかったと思います」
次に、肝心の“走り”はどうか。クラリティに搭載するモーターの最高出力は130kwで、FCVとしては世界トップクラスの力強さを誇る。
「騒音はほとんどなく、静かなまま滑らかに加速していく感覚は、明らかにエンジン車とは異なるフィーリングを味わうことができます。
FCVは高圧水素タンクを積んでいるので車両重量が重く、MIRAIが1850kg、クラリティも1890kgあります。そのため、ホンダは重さを感じさせない機敏なハンドリング性能に相当こだわったといいます。確かに、ホンダ車らしいスポーティさ、走っている手応えはMIRAIのフラットな乗り心地とは違いました」
そして、エンジン車の燃費にあたる走行距離は購入動機の大きなポイントとなろう。クラリティは水素1充填あたりMIRAIよりも100km長い約750kmを謡っている。
「水素燃料の搭載量がMIRAIの4.3kgに対してクラリティが5kgなので、その分、航続距離を伸ばすことができたのですが、FCV自体の燃料コストは決して安いとはいえません。
いま水素の公的価格からみると、100円あたり約11km走れる計算になります。しかし、ガソリン車と比べてみると、1リットル100円前後で11km走るクルマの燃費はむしろ悪い水準。ハイブリッド車も多数出ている中で、FCVの燃料代は割高なのです。
量産化により水素価格が下がる見込みがはっきり示されない限り、わざわざFCVを選ぶメリットもなくなってしまいます」