無類の猫好きとして知られる俳優の佐藤健(27才)。飼い主の衣服に入り込む猫たちの愛くるしい姿を集めた写真集『そでねこ』(小学館)を手渡すと、「うわぁ、かわいい~」と、途端に目尻を下げた。
「そうそう、こういうところに入りたがるんですよね。意味わかんない。ふふっ。触りたいなぁ。実家の猫に会いたくなっちゃう」(佐藤・以下「」内同)
そんな彼が主演するのが、5月14日から公開の『世界から猫が消えたなら』(通称・せか猫)。2013年に本屋大賞にノミネートされ、国内外で累計部数120万部を超える川村元気の同名ベストセラーを映画化。余命わずかな主人公「僕」の前にある日突然、自分と同じ姿をした悪魔が現れて、「世界から何か1つ、ものを消すことで、1日の命をあげよう」と言われたとしたら──電話、映画、時計、猫……。悪魔にそそのかされるままに次々とものを消していくが、その引き換えに恋人や親友、家族との思い出も1つ1つこの世から消えていく。
「ぼく自身の心にいちばん刺さったのは、母親への愛です。亡き母との思い出のシーンを台本で読んだ時には、泣きました。ただ、20代のぼくは親が死ぬことをまだ身近に考えたことがなくて、役柄を前にして『僕』の気持ちに全然なれなかった。そこが今回、とても難しいところでした」
クランクイン前も撮影中もずっと、自分の親との別れについて思いを巡らせていたと語る。
「考え抜いて感じたのは、親への感謝は素直に伝えるべきだということです。劇中の『僕』はそれができなくて、ぼくも最初は“後悔している暇があったら、今、目の前にいる母親に言えよ”と、感じながら演じていたんです。でも、自分に置き換えると、なかなかできることじゃない。いつもは照れくさくて言えないけど、せっかくその大切さに気づけたので、これからは生きかたも変えたい。『生んでくれてありがとう』と、伝えられる息子でありたいです」
命や愛、幸せとは何かを問いかける作品で、身も心もまるごと役柄に捧げた。そんな現場では、「僕」の愛猫・キャベツの存在が心のオアシスとなったという。
「ひとり暮らしの今は猫を飼っていないけれど、飼っていたらたぶん、現場には毎日遅刻するでしょうね(笑い)。生まれた時から実家にはいつも猫がいて、人生で初めて『命がなくなる瞬間』を目の当たりにしたのも、飼い猫の死でした。猫がいなかったら、今のぼくにはなっていない。自分の人格を形成している大事な部分です」
劇中でお気に入りのシーンを尋ねると、悩んだ末に「『僕』の胸元に入ったキャベツが、いい子にしているシーン」とはにかんだ。
「この映画を見ればきっと自分の人生を思い返します。ぼくにとっては母親や猫でしたが、心に刺さるシーンは見る人によって違うと思う。自分にとって大切なものは何か、何を希望として生きていくのか──できれば大切な人と一緒に、探してほしいです」
【プロフィール】
佐藤健/さとう・たける
1989年3月21日、埼玉県生まれ。映画『るろうに剣心』3部作、『バクマン』や、ドラマ『とんび』『天皇の料理番』など、数々の話題作に出演。2015年東京ドラマアワード主演男優賞や2016年橋田賞ほか受賞歴多数。川村元気のベストセラー『世界から猫が消えたなら』(小学館文庫)原作の映画『世界から猫が消えたなら』で主演(5月14日公開・東宝)。10月15日には映画『何者』の公開が控える。映画『世界から猫が消えたなら』オフィシャルフォトブック(小学館)が4月21日に発売。
撮影■樂満直城
※女性セブン2016年5月5日号