いま中国では、いたるところで、給料の未払いや劣悪な労働環境に抗議する労働者のデモやストライキが頻発している。中国政府の公式統計では昨年の1月から9月までの9か月間で1万1000件以上。香港に本拠を置く、中国の労働運動の調査機関「中国労工通信(CLB)」の調査では、昨年12月1日から春節(旧正月=日本の元旦に当たる)の2月8日までの2か月間で1050件も発生している。
こうした状況から、鉄鋼業界や石炭業界では大幅なリストラが行われる予定で、中国人力資源・社会保障部(日本の旧労働省=現厚労省に相当)トップの尹蔚民・部長は、全人代開幕直前の2月末、記者会見で、石炭業界の130万人を含む計180万人の従業員の再就職や再配置を行うことを明らかにした。ジャーナリストの相馬勝氏がリポートする。
* * *
実は、中国政府内部で、リストラについて初めて言及したのは李克強首相だ。具体的な会議名は明らかではないが、李首相は政府の内部会議で、鉄鋼や石炭業界など、過剰生産で利益を出しておらず、地方政府の補助金でかろうじて生きながらえている赤字企業を「ゾンビ企業」と呼んで、今後2年間で撲滅すると言明。李首相は全人代初日の政府活動報告でも「改革」という言葉を70回以上も連呼し、経済再建への強い決意を披露した。
ちなみに、ゾンビは中国語ではチァンシーといい、「硬直した死体」という意味。香港映画で有名な「キョンシー」を指している。このため、ゾンビ企業はいわば「亡霊のような企業」といえるだろう。
ゾンビ企業は中国本土の上場企業だけでも10社に1社あり、合計で220社以上とされる。製造業が最も盛んな広東省では非上場も合わせて2300社以上もあるとみられる。「この結果、鉄鋼業や石炭業界を含む国有企業の500万から600万人がリストラで失業する可能性が大きい」とロイター通信は政府関係筋の話として伝えている。
中国では失業率が10年以上も2~3%台で推移してきたが、今年1月の失業率は4.99%と、5%に届こうという高い数字を記録しており、すでにリストラは始まっているようだ。今後リストラが本格化すれば、失業者の急激な増加で、社会不安の一層の拡大が予想される。