難しいと敬遠されがちなジャズも、「歌」を中心に聴いてみれば、グッと身近に感じられるとジャズ評論家の後藤雅洋氏は語る。
「トランペットやサックスなどのインストゥルメンタルは抽象的で、音になれるまで時間がかかり、そこがハードルの高さになっているのでしょう。その点、歌は歌詞があるのでわかりやすいし、声には感情があるので親しみも湧きます。ジャズ入門としては、ヴォーカルが最適です」
ジャズでは、多くの歌手がスタンダードナンバー(定番曲)として同じ楽曲を歌う。同じ楽曲をどう歌うかが、歌手の腕の見せ所である。
「ジャズ・ヴォーカルを突き詰めると、“人を聴く、個性を聴く”ということ。聴き所のポイントは声質です。ただし美声である必要はなく、正解がないのがジャズの面白さ。その証拠に『ジャズの父』と称されるルイ・アームストロングは、ひどいだみ声でした。それでも黒人独特の力強さや彼の人柄が表われた温かい声は、聴く者を惹きつけます」(同前)
人種や性別による声質の違い、時代による表現の違いなど、歌手が変われば、楽曲の表情も変わる。こうしたジャズ・ヴォーカルの奥深さを紹介すべく、後藤氏が監修したのが、隔週刊CDつきマガジン『JAZZ VOCAL COLLECTION』(小学館)。全26巻で歴史的な名ヴォーカリストを網羅する。
「フランク・シナトラやサラ・ヴォーン、ナット・キング・コールなどジャズ界のレジェンドの歌声をCDで聴きながら、マガジンでヴォーカリストの聴き所を掴んでいただけます。選曲は浅田真央さんの競技曲『素敵なあなた』や『バードランドの子守唄』など、耳なじみのある曲ばかり。美空ひばりを筆頭に日本のジャズ・ヴォーカルも特集します」(同前)
◆ごとう・まさひろ/1947年、東京都出身。ジャズ評論家。慶應義塾大学在学中の1967年、四谷にジャズ喫茶『い~ぐる』を開店。著書に『一生モノのジャズ名盤500』(小学館)ほか多数
※週刊ポスト2016年4月29日号