50代でおよそ半数が発症するという白内障は、万が一悪化しても、“日帰り”手術で“簡単”に“すぐ治る”──そう気楽に考えている人も多いだろう。しかし、手術後、いつまでも違和感が拭えずにいる人も実は少なくない。著書『後妻白書 幸せをさがす女たち』が話題のノンフィクション作家・工藤美代子さんもその一人。3月に両眼を手術したばかりの工藤さんが、自らの体験を綴った。(最終回、全三回)
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◆大事なことは満足がいく度数をどういうふうに合わせるか
ここではたと気づいたのは、やはり患者と医師のコミュニケーションの大切さだった。執刀はどんな感じなのか。所用時間は患者によって違うのだから、いちがいに五分とか十分とかは言えないし、長くかかったから失敗ということもない。術後はどんなふうに変わるのか。個人差もあるだろうから、じっくりと、症状を教えて欲しい。
患者としての私はそう思うが、堤先生によると、あまりに複雑な説明をしても患者はすべてを憶えてはいない。どんな眼科でも、丁寧に説明はしているはずだが、後から不満を述べる患者が多い。
私の場合は単焦点のレンズを入れた。これは保険が適用されて、三割負担だと片眼が四万五千円くらいだった。
ところが、眼鏡に例えると遠近両用、つまり多焦点のレンズもある。こちらは自由診療になるので、両眼で七十万から百万円近くなる。老眼を経験したことのない若い人には多焦点の眼内レンズはお勧めだという。
人間というのは面白いもので、高い支払いをしたら、当然、それだけの効果があると思い込んでしまう。しかし、現実はそう簡単ではなくて、多焦点のレンズが合わない人もいるそうだ。そのリスクを事前に説明しても、やはりクレームが生じ、入れ替える手術を受ける患者はいるらしい。
おそらく私が手術をしてもらったクリニックでも、あらゆる想定をして何が起きる可能性があるかを説明してくれたのだろう。しかし、残念ながら私の頭にはまったくインプットされず、術後は不安ばかりが増大した。
もともと近視の患者と遠視の患者とでは、同じ白内障手術を受けてもレンズの選び方には違いがある。遠視が強い場合は、白内障手術によって遠視をなくすと、厚い眼鏡とはさようならできる。近視が強い場合は近視を全部なくしてしまうと、遠くは見えるのだが、近くが見えなくなってしまって困る患者もいるらしい。
「手術の上手い下手も大事ですが、それよりも患者さまの満足がいく度数をどういうふうに合わせるかがポイントです」
堤先生の言葉で、ようやく私は納得した。単焦点のレンズを入れたら、遠くは見えても、近くが老眼鏡の助けを借りなければまったく見えなくなるという現実をしっかりと認識しないまま手術を受けてしまった。それが自分の術後のさまざまなストレスの大きな原因だったのだ。