政府は首都直下地震について18タイプに分けて被害想定をシミュレーションしているというが、そのうち活断層地震で大きな被害が出ると想定されているのが『三浦半島断層群地震(M7.2)』だ。約30万棟の建物が全壊・焼失し、約8000人以上が死亡するという被害がはじき出されている。
十分に恐ろしい数字だが、それ以上に甚大な被害をもたらす「超巨大活断層」の存在に警鐘を鳴らすのは東洋大学社会学部の渡辺満久教授(地理学)である。
「群馬県高崎市から埼玉県熊谷市にかけて続く『深谷断層』と、埼玉県鴻巣市からさいたま市に続く『綾瀬川断層』は政府の調査対象になっているが、私の調査によるとこの2つの断層がつながっている可能性が高い。
さらに調査未了の地域もありますが、綾瀬川断層の南端は南東の草加市付近まで伸び、千葉県市川市行徳の江戸川河口に至る活断層の一部が確認されています」
つまり、高崎市から市川市まで全長120kmの巨大活断層が首都圏を横切っていることになる。隣接する春日部市や越谷市なども危険にさらされるだろう。地震の規模は活断層の長さに比例する。
「私が『想定綾瀬川断層』と呼ぶこの断層が動けば、M8クラスの首都圏直下地震が発生し、それに加えて土地がずれる可能性が高い。これは死者・行方不明者が10万人を超えた関東大震災に匹敵する規模です」(前出・渡辺氏)
想定綾瀬川断層の上には東北・上越新幹線、JR東北本線、総武線などの鉄道7路線以外に東北自動車道や首都高速、国道4号などの主要道路が通っている。
「活断層の真上の線路はちぎれ、高架橋は橋脚ごと倒壊。列車は脱線、転覆したり、高架から落下したりする大惨事も想定される。ラッシュ時間帯と重なれば、被害はさらに拡大するでしょう」(防災都市計画研究所・村上處直会長)
さらに憂慮すべき事態があるという。
「荒川区や江戸川区など、東京湾周辺の低地は軟弱な地盤が多く、地震の際は大きな揺れとなることが予想される。上流の埼玉県内から都内にかけ、荒川の堤防が各所で決壊する恐れもあります」(前出・渡辺氏)
そうなれば、ゼロメートル地帯の多い東京東部は水浸しとなる。地下鉄の駅には濁流が流れ込み、多くの死者が出ることも予想される。
2007年に埼玉県がまとめた被害想定では、綾瀬川断層が動くとM6.9の地震が発生し、死者は124人、負傷者は3903人、倒壊焼失棟数は8208棟にのぼるとしているが、あまりに甘い算定といわざるを得ない。
※週刊ポスト2016年5月6・13日号