熊本地震は、日本人のみならず、中国人旅行客にも襲いかかった。熊本は温泉や阿蘇山など、外国からの旅行客にとって魅力的な観光地が多い。だが、地震で観光ムードは一変。熊本旅行中に被災した中国人たちがとった行動は、「爆買い」ならぬ「爆乗り」だった。
最初の地震が起きた翌日の4月15日、出張で熊本を訪れていた東京在住のある女性が、市内のホテルでその現場に遭遇した。
「東京へ帰ろうにも、熊本空港は閉鎖されているし、九州新幹線も運転見合わせ。バスもなかった。車で2時間の距離の福岡空港まで行けば飛行機が飛んでいるので、ホテルのフロントでタクシーを呼んでもらうよう頼んだら、『中国人のお客様のタクシー予約でいっぱいです』って言われてしまったんです」
女性はそのとき、フロントで中国語をまくし立てる中国人の団体客を目撃した。後でフロントのスタッフに、何を話していたのか聞いてみると、
「『10万円出すから福岡まで行かせてくれ。早く中国に帰りたい』とおっしゃっていました」
といわれたという。福岡までは通常ならタクシー代は3万円ほどだというから、3倍以上である。ある熊本のタクシー会社社員はこう話す。
「4月15日に、30人ほど中国人のお客さんを乗せましたね。タクシーは全部で7~8台でした。みなさん14日の地震でぐったり疲れてしまったようで、『日本はもうたくさんだ!』という感じでした」
別のタクシー会社社員によると、同ホテルに宿泊していた中国人客は複数のタクシー会社に手当たり次第に電話していたため、ダブルブッキングが多発したという。
「中国人からドタキャンされたタクシーを運良く拾って福岡まで行けましたが、本当にどうなることかと思いました」(前出の女性)
金払いがよくても、ドタキャンされた日にはタクシー会社も商売上がったりである。「爆買い」はありがたいが、「爆乗り」はやめてほしいものだ。
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2016年5月6・13日号